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お題:約束

『ウエディング衣装ミレイユ、尊い』  たったそれだけの文章だけど、これにはとんでもなく重い思いが込められている。  新ガチャ投入で実装されたのは、嫁キャラ・ミレイユの信じられないほど可愛い衣装。ウエディングドレスに身を包み、はにかみを向けてくる姿は尊すぎる。これが2万でブン回した結果なのだから、安すぎるぐらい。後で天井まで回して凸しよ。  嬉しすぎて逆に冷静になった状態で、ミレイユのスクショを添付してツイート。すぐに♡がついてきた。ふふ…良いだろう、良いだろう…!  ベッドに寝っ転がり、嫁キャラが待機してるゲームのホームをニヤニヤしやながら眺めていたら、誰かからリプが飛んできたみたいだ。  画面上に一行で表示された文章を見て、反射的にアプリをツイッターへと切り変えた。 『これ、すげぇ可愛いな』  このアイコン!この短文!間違いなく、俺のリアルの嫁、あおちゃん…!! 『だよね!!気合い入っててすごいきれい!あおちゃん着ないの?!』 『え、ウエディングドレスだぞ…?第一、衣装持ってないし』 『衣装は作ります!!!!!』  秒速で返してから、スクショ画面へ戻る。後ろは引きずる程の長さなのに、前はやっぱりミニ。脚には白のニーハイに、白のガーターベルト…これを着たあおちゃんとか犯罪だよ、目の前にしたら息できないかもしれない。  ドレス作ったこと無いけどなんとかなるでしょ!最悪リメイクすれば…できるできる!  再びのリプの知らせにツイッターへ戻ると、俺たちの会話にまで♡とRTがついてきてきた。リプはあおちゃんからじゃなくて、他のレイヤー友達から。 『ケー蒼、とうとう結婚式ですか』 『おめでとうございます!式はいつですか?!』  あー、こういうノリの良さ大好き。こうやって追い込んで決まった合わせは流しにくいよね、みんな見てるもんね。ね、あおちゃん! 『おめでとう!カメラは必要ですか?』  まーやんさん!神過ぎる…!囲い込みあざっす!♡とRTしとこ。 『え、マジでやんの?ケータ衣装作れんの?』 『任せて!!!素敵な結婚式にしようね♡』  ◆ 「まさか…この場所に、こっち側で立つ日がくるとは思わなかった」  平日の教会シェアイベントに予定をねじ込んで、あっという間に撮影当日。  祭壇の前に立っているあおちゃんは、なんとも言えない顔でステンドグラスを見上げていた。俺の作ったウエディングドレスを着て日差しを浴びている姿は、画面越しのミレイユなんかとは比べ物にならないぐらい綺麗だ。 「付き合ってくれてありがとう、あおちゃん」 「まあ、今更だろ」 「あおちゃん大好き…」 「はいはい。それに、この位置他のやつに取られるのも癪だし」 「あ゛お゛ち゛ゃ゛ん゛んんん…!!!」  ニカッと男らしく笑うけど、可愛いことを言われて、思考回路はショート寸前。ハートは万華鏡になる前に思い切り目の前の嫁を抱きしめた。 「はーい、撮影するからケータ君落ち着いて〜」  少し離れた所からカメラの調整をしていたまーやんさんに怒られた。けど、気にせずに抱きしめる…あ、ううん、あおちゃんの胸元にでっかい白いバラのコサージュついてるから、それが潰れな程度には抱きしめた。 「とりあえず、シルエットはこんな感じ」  あおちゃんへ渡されたまーやんさんのカメラの画面を一緒に覗き込む。写ってるのは、見つめ合ってる影の写真。明るさがかなり落とされてるせいか、後ろのステンドグラスが透けてとっても綺麗な写真だ。 「すごいな…」 「明るいのも撮ろうか?」 「ゼクシィみたいなふわふわなやつっすか!欲しい!」 「りょーかい。じゃあストロボの準備するからちょっと待っててね」  俺の返答にまーやんさんは笑いながら頷くと、預けていたカメラを受け取ってから荷物の元へと戻っていく。その後ろ姿を見送っていたら、あおちゃんがヤバイって呟いた。どうしたのか視線だけで問いかけたら、少し恥ずかしそうに笑ってた。 「さっきの写真、お忍びの式みたいで…照れる」 「確かに!そう言えば、あおちゃん俺とした昔の約束覚えてる?」 「約束?」 「うん。小学生の頃…あおちゃんにとっては、何気ない一言だったのかもしれないから、忘れちゃったかな」  首を傾げて見上げてくる可愛い恋人に、笑い返す。  小学生の時、俺の両親が離婚する寸前だった頃。喧嘩ばっかりだった親の姿を見て、幼いながらに結婚なんかしたくないって思ったんだ。喧嘩ばっかするのに、なんで結婚したんだって。  家にも帰りたくなくて、公園で時間を潰す俺に付き合ってくれてたあおちゃんは、俺の愚痴を聞いて、今みたいに不思議そうに首を傾げてた。 「喧嘩しない相手とすりゃいーじゃん」 「そんな人いるのかなぁ」 「んー、じゃあ、してもすぐに仲直りできるやつ?」 「いないよそんな人。あおちゃんぐらいだもん」 「えー、オレー?」 「あおちゃん結婚してよぉ」 「うーん…オレたちが大人になっても、結婚してなきゃいいよ」 「え、いいの?!」 「うん。オレも啓太好きだし」  そう言って笑うあおちゃんの顔を、今でも忘れられない。思えば、俺はこの頃からこの人が好きだったんだと思う。  大人になって、やっと恋人同士になれて。撮影とはいえ式まで挙げられた。それだけでも幸せな事だ。 「あー、思い出した。結婚のやつ?」 「え…」 「あの時はコイツとなら楽しいし、いっかって思ってたけど…まさか、ほんとに式挙げるなんて驚きだよなぁ」  あの時と同じ笑顔で笑うあおちゃんに、息が止まった。  目の前がぼやけて、胸が締め付けられて苦しい。悲しくてとか辛くてじゃない。嬉しすぎて死ぬほど苦しいし、涙もでてきた。  体は自然と動いて、目の前の小さい体へと腕が伸びる。  ぎょっとした顔のあおちゃんを胸に納めて抱きしめてから、堪らずに顔を寄せた。 「ありがとう…」  祭壇の前で交わす誓いのキス。これで、俺たちの約束は本当に果たされた。

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