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side-M
「……ちゃんと爪切ってるね」
「あぁ? なんや急に……」
まじまじとオレの手を見つめてぼんやり呟いた颯真が、うん、と生返事で頷く。
「最近さぁ……司と会ってないからさぁ……爪、伸びてるなぁって……」
自分の手を見下ろしてしょげた声を出した颯真に、思わず苦笑した。
秘密を共有する仲になってから、時折こんな風に弱いところを見せてくるようになった親友が、ほんの少し可愛く見える。
「なんや、喧嘩でもしたんか」
「いや……テスト中じゃん? 司はさ……ちょっと色々あってさ。単位、取り逃してるやつが多くて。卒業かかってるって言われたらさぁ、我慢するしかないよなぁ……」
「……まぁそらしゃあないわな……」
元気出せ、とぱふぱふ頭を叩いてやりながら、それにしても、と内心で苦笑を噛むしかない。
(どんな女子もイチコロやったイケメン が、まっさか彼氏相手にこんなにしょんぼりしとるとはな……)
彼女をとっかえひっかえしていた頃、フラれようがひっぱたかれようが顔色のひとつも変えなかった颯真が、たかだか自分の爪が伸びていることくらいで凹むだなんて。
「えぇこっちゃ」
「どこがだよ。全然よくないよ」
「……そういう感じがや」
「? そういう感じ?」
「青春ぽいやないか。とっかえひっかえしとった頃よりよっぽど楽しそうやぞ」
「とっかえひっかえって言わないでって言ってんのに……」
ぶつくさ文句を言うわりには、満更でもなさそうな顔で頭をぽりぽりと掻いている。
やれやれ本当に今が幸せなんだなと心の中だけで笑ったら、今夜はアイツを誘ってみるかなと愛しい恋人の顔を思い浮かべて──
「んぁ? アイツそういや、なんでおらんねん?」
「ぇ? 席外してるだけじゃないの?」
「いや……見てへん」
「ちょっ、電話! テスト始まるって!!」
「~~あンの、どアホ!!」
結局、潔い寝坊をした恋人をお説教するため、夜に自宅へ誘うことになった。
「こういうのと違 うんやけどなぁ……」
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