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《ひとらしく》
「はい、コーヒーです」
風呂上がりにホットコーヒーを出しながら横に腰を下ろす。
「あぁ、すまないな、服まで貸してもらって、ありがとう」
あずまの服は洗濯にまわし、とりあえず俺のTシャツと短パンなどを貸した。俺サイズだからあずまにはややサイズが大きいけれど着てくれた。
「綺麗になりましたね」
あずまは元々天然パーマがあるのか、乾いた髪はややウェーブがかっていて、たまに白髪も生えていたりして、意外とオシャレに見える。
47才で白髪交じりってかなり苦労が見えるけど、本人はそれほど悲観には思ってない様子。
「あぁ、龍川くんのおかげだ」
お礼をいいながら、不自由な両手で器用にコーヒーカップを持ち、ゆっくりとふちへ口をつける。
髭に隠れて見えなかったけれど、意外と厚みのある唇。
「ハァ…うまい」
ひと口ひと口、味わって、大切に飲み込んだあと、ふぅ、と息つく、その飲み方がなんとなくセクシーに見える。
「名前で、呼んでもらえません?」
なぜか、心が騒めく感覚が走るが…
ひとまずスルーして、希望を伝えてみる。
「え?」
「敬大っす」
「あぁ、敬大くん、ありがとう」
「うす!髪、いつか染めましょうか」
「髪?」
「白髪か目立ってるから染めたら若返りますよ」
そっとあずまの横髪に触れて微笑む。
「はは、若返ったところで、…その金が勿体無いよ」
釣られて笑うあずまの目尻には、うっすら笑い皺が浮かぶ。
「顔だって、髭綺麗にしたら、全然カッコいいし、若い頃モテたでしょ?」
「はは、いーや、女の子はみんなこの手を怖がってね、そういうことは無縁だ」
「えっと、もしかして童貞のまま?」
「ふ、気持ち悪いか?こんなおじさんが…」
「いや全然!」
「はは、君はもう経験したのか?いい身体つきだ、何かスポーツをしているのか?」
「残念ながら、野球一筋で」
小学校から野球をやっていて、それなりに鍛えられた身体に、身長も恵まれ180cm近くはある。
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