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09.暴かれた瞳

「ルー……?」 「ケイッ!!!!!」  正面から景介(けいすけ)を抱き締める。こんなにも早く再会出来るとは。身を震わせ、喜びを噛み締める。 「っ!!!?? 離せよ!!! ~~っ、おい!!」  それも束の間、乱暴に肩と額を押される。 「やだっ!!! 離さない!!! もう絶対――っ!?」  直後、右目に激痛が走った。景介の指が眼球に触れたようだ。 「い、つッ!」  堪らず体を離す。 「わ、悪い!」  景介は逃げることなくルーカスを気遣った。変わらず(そば)にいることに安堵しながら、彼の方を見る。 「あっ、あれ……?」  ぼやけてよく見えない。目に触れられた影響か。ひとまず瞬きをしてみる。徐々に視界がクリアになってきた。 「オレの方こそごめん……?」  景介は文字通り目を点にしていた。嫌な予感がする。手早くスマートフォンのカメラを起動させ、自身の姿を映し出す。  ――案の定、黄色い瞳が露わになっていた。  即座に左手で右目を覆い、周囲を確認する。景介以外にこの目を見た者はいないか、と。 「うわぁ! すごいなぁ。もっとよく見せてくれない?」  例のカメラを持った生徒が近付いてくる。ワックスの香りが漂う外ハネの髪。整えられた眉。切れ長の目。華美で隙のないその姿は(あや)しくもあり、高圧的でもある。例えるなら(へび)爬虫類(はちゅうるい)の類がしっくりくる。  彼は同級生なのだろうか。エンブレム下、リボンの刺繍を見ると青だった。ルーカス達のものは赤。つまりは、一つもしくは二つ上の上級生ということになる。  何にせよ彼の手にはカメラがある。撮られては事だと後退をすると、紺色の背が現れる。 「止めてください。嫌がってんの、見て分からないんですか?」  (かば)ってくれたのは景介だった。凄まじい迫力だが、茶髪の生徒が屈する気配はまるでない。 「むかつくなぁ~。キミ、ちょっと欲張りすぎるんじゃない?」 「あ? 何言ってんだ、アンタ」  一触即発の事態。何とかしなければ。思えば思うほどに手も、足も、頭も、動かなくなっていく。 「あ~! もう! 止め止め!」  景介と茶髪の生徒の間に一人の生徒が立つ。 「こんな晴れの日に揉め事なんてナンセンスですよ」  仲裁に入ってくれたのは例の黒縁メガネの生徒だった。目尻がたれ下がった穏やかな目をしている。例えるなら、キリンやゾウといった大型草食動物の類がしっくりくる。景介よりも高い背がそう思わせるのかもしれない。景介は推定170センチ、メガネの青年は180センチ。 「あっ……」  そこで(ようや)く気付く。二人を、景介を見上げている自身の存在に。3年前はルーカスの方が大きかった。その差は一回り以上もあったというのに、今はその逆だ。衝撃と落胆によろけてしまいそうになる。 「金髪クンもそー思うよな?」 「へっ? あ……っ、……えっ?」  金髪。自分のことか。理解するも口が思うように動かない。三者の視線。膨らむプレッシャーに圧し潰されて。 「あ、あれ? もしかして通じてない?」  メガネの青年の表情が、みるみるうちに強張っていく。いけない。彼は丸く収めようとしてくれているのだ。厚意に報いなければ。自身に喝を入れ、口を開く――。

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