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08.思い出と再会と
出会ってから4か月ほど経った頃のこと。ルーカスは景介に右目を見せた。夕暮れ時の榊川 。原っぱの隅にある山萩 のトンネル。その前に向き合うように座って。
『ねえ……オレの目……どう思う?』
景介 は暫 くの間何も答えず、ただひたすらにルーカスの瞳を見つめていた。嫌悪感や驚きから言葉を失っている、というふうには見えなかった。目で色を感じている。青々と茂る山、滲 む夕暮れを前にした時と同じように。そんな彼の目を見ているうちに緊張、恐怖は泡となり消えた。半ば身を乗り出すようにして景介に迫る。
『どうかな?』
『えっ……?』
彼らしからぬ気の抜けた表情と声が返ってくる。
『ふっ、……ははっ!』
『~~っ、笑うなバカ』
『ごめん。でも……』
――嬉しくて。言いかけた言葉を飲み込む。まだ早い。期待感を胸に景介を見る。すると彼は尖らせていた唇を緩ませ、口角を上げた。
『うるさい色だ。でも……』
「……っ!」
瞬く間に包まれる。温かで甘酸っぱい笑顔に。
『お前らしくて……俺は嫌いじゃないよ』
――今もなお色褪 せることのない情景。触発され、目がじんわりと潤み出す。
「ケイ……うぶっ!?」
直後、顔面を叩かれた。真っ白に染まった視界。風が吹き抜けていくのを感じる。
「名、簿……?」
周囲を見回すが持ち主がやってくる気配はない。諦めてチェックを再開させていく。光の言葉を胸に抱きながら。
「っ! しら……と……!?」
喜びのあまりそれ以上声が出なくなる。ここにくる。確実に。間違いなく。名簿に皺が刻まれていく。彼に会うために戻ってきたというのに、どうにも逃げ出したい衝動に駆られる。会いたい。会いたくない。相反する感情に戸惑う。
「っ! 何やってんだ!!!!」
凄まじい怒気だ。一体何が。恐る恐る振り返る。
「えっ……?」
10メートルほど離れたところで、二人の男子生徒がキスをしていた。しかし、合意の上ではないらしい。黒縁メガネの青年が茶髪の青年を突き飛ばす。
「幸先いいね。僕達、体の相性もいいみたい」
「ははっ、モデルって、ようはセフレってことですか?」
硬く笑うメガネの青年を気の毒に思いつつも、ルーカスの目は茶髪の生徒を睨み付ける色白の青年に釘付けになっていた。
ゆっくりと歩き出す。一歩、一歩。青年に近付くごとに速さが増していく。
「ぅぁッ!……はっ……っ!」
足がもつれた。だが、止まらない。止まれるはずがなかった。
「~~っ! ケイ!!!!!!!!!!」
叫ぶように名を呼ぶ。視線が重なり合った瞬間――確信した。この青年が白渡景介 であると――。
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