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59.白鳥の君

 (くちばし)らしきものがあることから鳥。話の流れからして白鳥なのだろう。頼人(よりと)はその白鳥(?)の体の下に湖面と思わしきものを描き込み、(おもむろ)に語り出した。 「白鳥ってさ、こんなふうに優雅に泳いでるイメージあるだろ? でも実際は……」  湖面(?)の下に様々な角度のU字を描き込み始めた。それこそプリントの白が見えなくなるほどに。 「必死に足をバタつかせて泳いでるんだってよ」  満足気に笑い、ペンを放った。このプリントは今日の授業終わりに提出することになっているのだが。苦笑しつつ話の続きに耳を傾ける。 「先輩がかましたっていう嘘の話とか聞いてたらさ、あの人も必死なんだな~とか思っちゃって」 「必死……」 「そしたらこの白鳥の話を思い出してさ。憎めなくなっちゃったんだ」  言われてみれば確かにそうだ。照磨(しょうま)の言動にはスマートであるようで場当たり的な、頼人の言う必死さを感じる節が多分にある。  それだけ頼人に期待を寄せているということなのだろう。彼となら素顔のまま愛し合えるのではないか、と。  もしかすると頼人も期待しているのかもしれない。照磨であれば自身の求める最愛に。この人のためなら何だって出来る。していいんだと思えるような相手になり得るのではないか、と。  照磨に弟子入りすれば自ずとそのあたりも見えてくるだろう。読み通りであれば自分の経験が(わず)かながらに活きるかもしれない。景介(けいすけ)の仮面を取り払ったあの経験が。頼人が描いた絵を一瞥(いちべつ)し、決意を固める。 「それでは、今日も元気に頑張りましょう」 「っ!? ルー!?」  挨拶が済むなり教室を出た。急がなければ。1時間目の授業が始まるまで残り10分を切ってしまっている。二段飛ばしに階段を上っていく。  照磨が在籍している2年1組・特別進学クラスの教室はルーカス達の教室のちょうど真上にある。目的地に辿(たど)り着いたルーカスは、早々に中を(のぞ)く。思いの(ほか)あっさりと目的の人物を見つけることが出来た。  窓側の一番後ろの席で写真をチェックしている。物珍しさにクラスメイトの一人でも寄ってきそうなものだが、現状を見る限りそんな気配はまるでない。(たま)らなくなり、気付けば教室に足を踏み入れていた――。

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