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72.君の笑顔のために

「ケイのことを思ってたらこの景色に出会ったんだ。自分で言うのもなんだけどロマンチックでしょ?」 「…………」  景介(けいすけ)は何も言わず、ただまじまじと写真を見つめている。いや、味わっていると言うべきか。 「小学生の頃みたいだよね。学校にいる間はずっと一緒。けど、放課後からは別々って」 「そうだな。あの頃はお前を喜ばせるのに必死で……って、それは今も変わらないか」 「へっ!?」  ルーカスの頬が夕焼け色に染まっていく。とんだ番狂わせだ。身勝手に(いきどお)り、手元のカメラを握り締める。 「頑張るよ。昔以上に喜んでもらえるように」 「うっ、うん! オレも――」  景介の唇が写真に触れる。 「~~っ!!?」 「ありがとな」  言葉が続かない。全身がこれ以上ないほどに熱くなり、視界が歪む。(うつむ)くと控えめな声量で笑われた。悔しい。けれど、それ以上に嬉しいと思ってしまう。  ――彼色に染まってしまっているから。  心も、体も、何もかも全部。 「それじゃ、またな」 「うっ、うん! また……」  景介を見送った後、彼とは反対の方向に向かって歩き出した。足取りは重く、それでいて軽い。ここから始まる。長く険しくも心躍る毎日が――。  ――それぞれの師のもとで学び始めてから半年後。11月頭の段野(だんの)の風は肩を(すぼ)めずにはいられぬほどに冷たく澄んでいる。そんな寒さの中、制服姿のルーカス、頼人(よりと)照磨(しょうま)の三人は榊川(さかきがわ)の川原に立っていた。 「照磨先輩! ソフトボックスの準備、出来ました。確認お願いします」 「ありがとう。今行くよ」  照磨はそう返すなり頼人のヘアセットの仕上げに取りかかった。彼の持ち味である柔和な人柄を引き立てるよう、やわらかな質感を持たせていく。そんなふうにして形作られていく彼の目元には何もない。思えばもう久しくあのメガネを見ていないような気がする。きっかけは何だったか。白いセーターの袖を捲り上げながら思い返していると、頼人と照磨の目が合った――。

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