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96.閉ざされた夜空

 段野(だんの)にある市立病院。景介(けいすけ)がそこに搬送(はんそう)されたのは1時間ほど前とのことだった。  待合室の椅子に座りただひたすらに祈る。生きて帰ってこられるようにと。涙は(こら)えた。泣いてしまったら最悪の事態になってしまうような気がして。それでも震えは止められなかった。手の中にある白い腕時計が小刻みに揺れている。  そんな手を父の手が包み込んだ。けれど、震えは止まらない。  ――父の手も震えているからだ。  重ねているのだろう。最愛に起きた悲劇と。ルーカスはもう片方の手で父の手を包み込んだ。少しでも手の、心の震えがおさまるようにと。  ほどなくして扉が開かれる。現れたのは一喜(かずき)だった。黒のスーツに紺色のスリッドタイ。馴染みの装いではあったがその顔は憔悴(しょうすい)しきっていた。無理もない。事故の経緯を聞かされていたのだから。 「コーヒーでも買ってこよう。カズキはここで待っ――」  父が言いかけたところで待合室の扉が開いた。  ――手術は完了した。  報告を受けるなり全速力で駆け出す。 「ケイ! ――っ!」  声が出ない。足元がぐらつく。 「うっ、うそ……」  景介の両目が白いドーム状のカバーで覆われている。なぜ。どうして。 「容態を、お聞かせ願えませんか」  声を発したのは一喜だった。 「私からご説明致しましょう」  青緑色のスクラブを纏った男性が応える。彼は静かだがしっかりとした声音で『波多野(はたの)』と名乗り、説明をし始めた――。

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