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95.動いて、また止まる
「NOOOOOOOO!? もう終わりでござるかぁ!?」
数にして5,000近くはあったはずなのだが、それでも足りないと感じてくれたようだ。胸の奥が熱くそれでいてむず痒 い。そのせいかもっと見てほしい。今度も引き続きなどと思い始めている。我ながら呆れるほどに単純だ。勢いよく麦茶を呷 る。温かかったはずのそれはひんやりと冷たくなっていた。
「ケイ……遅いね。もう7時になるのに」
「うん……」
徒歩圏内のスーパーは1軒のみ。10分ほどの距離だ。1時間ほどで戻るとも言っていた。気遣いの線も考えにくい。
――嫌な予感がする。
よすがを求めポケットから時計を取り出す。
「えっ……」
時計は止まっていた。景介 がこの家を出て5分ほどのところで。居ても立ってもいられずスマートフォンを手に取る。
「わっ!?」
着信の通知だ。相手は一喜 。電話を貰ったのはこれが初めてのことだった。一層胸がざわつく。出るのが怖い。けれど、出ないわけにもいかない。深呼吸をして画面をタップした。
「もしもし……?」
返事がない。聞こえてくるのは鼻を啜 る音だけ。明らかに様子がおかしい。
「どっ、どうしたんですか?」
「景介が……」
スマートフォンを握る手に力がこもる。
「ケイがどうしたんですか?」
「……っ」
一喜は暫 しの沈黙の後、口を開いた。腹に刺さった刃を引き抜くように。
「車に、轢かれた」
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