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83.仕返し

「へぇ、額に入れてくれたのか」  抹茶色の木製のフレームが光り溢れるその絵を引き立てている。 「うぉ~っ! ……へっ?」  喜びが驚きに変わっていく。無理もない。絵と隣に立つ人物とを何度となく見比べる。 「僕……?」 「ですよね?」  二人はほぼ同時に景介(けいすけ)を見る。対して彼は頬に力を込め、照磨(しょうま)を見据えた。 「半年前の、あの雨の日のお返しです」  よく言う。景介の並々ならぬ思いを胸に浮かべて反応待つ。 「可愛くないの」  照磨には届いたようだ。唇をへの字に歪めるも絵からは目を離さない。肝心の頼人(よりと)はどうか。 「…………」 「よっ、頼人……?」  見れば彼は目を点にしていた。 「……これ、本当に貰っちゃっていいの?」 「俺が持ってても仕方がないだろ」 「そっか。そうだよな……うん」  頼人は頭の後ろ掻きながら隣に立つ照磨に目を向ける。 「……何?」 「えっと……へへっ、後で話します」  はにかみながら絵の中の照磨に触れる。目の当たりにした照磨は直ぐさま顔を(うつむ)かせた。照れているのだろう。暗雲が立ち込めていた二人の未来に光が差し込んでいく。これはきっと願望でも錯覚でもない。事実だ。 「指田(さしだ)先生、本当にありがとうございました。こうして頼人に満足してもらえたのも先生のお陰――」 「未駆流(みくる)君でしょ」  瞬間、ルーカスの表情が強張る。  ――初耳だった。  過去に一度彼への弟子入りを勧めたことはあった。けれど、ハッキリと断られた。(すすむ)以外に師事する気はないと。 「えー? なーに?? 話してなかったの???」 『うぉっ!? かぁ~、脱がしてぇ~……』  未駆流は初めて景介を目にした時そう漏らしていた。彼との間には何か後ろ暗いところでもあるのではないか。唇を噛み締め景介を見る。すると思いがけず重々しい溜息(ためいき)で返された――。

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