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93.限られた時の中で
――翌日の夕方。12月23日
ルーカスと景介 は揃ってテラスに立っていた。祝日ということもあって二人とも私服だ。ルーカスはオリーブグリーンのパーカーに、カーキ色のカーゴパンツ。景介は黒のベンチコートにインディゴブルーのストレートジーンズといった比較的ラフな格好をしている。
上向けば赤く染まった空の上を烏 が悠々と飛んでいくのが見えた。
「おじさん、よく飽きないよな」
景介の視線の先、リビングへと続く大窓の前には父の姿があった。全体にフェアアイル柄があしらわれたベージュ色のセーターに、黒のスリムパンツを合わせている。
ルーカスと景介が作業を開始してかれこれ六時間。彼はその間休むことなく自分達を撮り続けている。邪魔にならないよう望遠レンズを駆使して。無理をしているふうでもない。むしろ嬉々として撮影に勤しんでいる。敵わない。本当に。
苦笑をしつつ胸を温めていると母の姿が思い浮かんだ。3年前母はそこにいた。アイスを貰ったと子供のようにはしゃいでいた。近いようで遠い夏の日の思い出。
「…………」
真っ白な息が宙を舞う。今日はやたらと冷える。雪でも降るのだろうか。
「はぁ~……お腹空いたね。夕飯は何にしようか?」
そう問うと視線で返された。あまりにも真剣な眼差しに面食らう。
「え゛っ? どっ、どうしたの――」
「今日の夕飯は、俺に任せてくれないか?」
景介はこの半年で料理の腕も上げた。常ならば大喜びで任せるところではあるが今日は、今日ばかりはそうもいかない。
「オレも手伝うよ」
「いや。今晩は俺にやらせてほしい」
「二人でやった方が――」
「アスペンに誘うためだけじゃないだろ」
「っ!」
「おじさんがここに来たのは」
意図を理解し、頬に力を込める。今朝方ルーカスは父に願い出た。帰郷の件は保留にさせてほしい。
――リベンジが完了するまでの間は、と。
父は快諾してくれた。けれど、以来ずっと二人きりになるのを避け続けている。罪悪感を拭い切れなくて。いや違う。
――失望感を僅 かでも感じ取りたくなくて。
「1か月も……じゃない。1か月しかいられないんだ」
ルーカスの成長、幸福を自分のことのように喜んでくれる。そんな父のことを思い、唇を噛み締める。
「……そうだね。ケイの言う通りだ」
父はこちらを見て首を傾げている。話の内容までは届いていないようだ。ルーカスはぎこちなく笑い、手元のカメラを握り締めた――。
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