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だが、今の麗蘭にはそんな他人の様子は微塵も視界に入っておらず、目の前の少女にだけ意識が向けられている。
自身の痛みがようやく落ち着いたところで、視線を少女に向ける。
「大丈夫、怪我はない?」
「う、うんっ」
麗蘭は目の前の少女に、今までとは雰囲気の全く異なる優しい口調で問い掛けた。
ただ彼女のことだけを心配し、無事を確認すると優しく微笑む。仕事のときとは違う、心から喜んでいる、とても優しいものである。
安心したところで二人は起き上がる。少し汚れた麗蘭の姿にホッとした人々であったが、前の方にいた数名が少しざわめく。
麗蘭の剥き出しの左腕は激しく擦れ、血だらけになっていたのである。
見るからに痛々しいものは、怪我を負った本人よりも周囲の人たちの方が騒がしいものとさせていた。
麗蘭に抱かれたままの少女がようやくそれに気付き、麗蘭に話し掛ける。
「腕を怪我してしまっているわ。手当てをしないと」
「ん、え……? あぁ、だから痛かったのか。これくらい平気平気」
「でも……」
麗蘭が断って立ち去ろうとしたその瞬間、再び車がやって来て二人の前で停車する。
車体が黒一色に染まって異質を放ったそれは、近寄りがたい雰囲気を醸し出しており、観衆は少し後ずさる。
後部座席のドアが開けられ、黒いジャケット姿の女性が出てきた。慌てていた様子であったが、少女の姿を見つけるなり、安堵したような息を吐きながら近寄ってくる。
「凜華 様、探しておりました。さぁ、帰りましょう」
「あのね春鈴 、この人があたしを助けたから怪我をしてしまったの。だから屋敷に連れて帰って手当てをしてあげてほしいの」
凜華と呼ばれた少女に言われ、春鈴は麗蘭の存在にようやく気付く。無表情で近付いていき、深々と麗蘭に頭を下げる。
「この度は凜華様をお助けいただきありがとうございます。怪我の手当ても致しますので、ぜひお礼をさせてください」
「んー……。分かった」
同じことを二度言われたせいか、春鈴に対する返答に麗蘭には断る気配が全く見られなかった。
春鈴に見守られながら麗蘭は立ち上がる。どこかから取り出した白い布を彼にそっと差し出され、とりあえず受け取って左腕を縛りながら車へ向かって歩き出す。
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