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 気付かないうちに車は人の少ないところへと向かっており、ネオンの灯りからところどころにある薄暗い街灯へと変化していく。  誰も人が通らないような道に、ポツリと大きな屋敷があった。暗がりでよく見えないが、立派な門がそこにあり、車は一旦その前で停止する。  運転手が窓を開け、外にいた誰かと話をする。すぐに立ち去ると、門が開けられる。  再び車が動き出し、敷地の中へと入っていく。  ぐるりと中心にある噴水の周りを進んでいき、屋敷の玄関の前で車が完全に停車する。  門に劣らず、停車スペースの設けられた玄関は、権力を象徴するような派手な造りであった。 「到着致しました」  春鈴は二人に向かって話し掛ける。彼女に近いドアが開けられ、降りるように促しながら先に降りていた。 「行きましょ、麗蘭」 「うん」  続いて凜華、最後に麗蘭が降りていった。  それを確認してから黙々と春鈴は前を歩いていき、その後ろをついて歩く凜華と麗蘭。  屋敷の中はシャンデリアを中心として華美なもので飾られており、ネオンとはまた違う明るさを放っていた。  初めて見る綺麗な輝きに、麗蘭は目を輝かせながらキョロキョロと眺めていた。 「前を見ないと転んでしまうわよ」  そう声を掛けられ、再び前を向きながら歩く。柔らかい絨毯の上を歩き、奥に位置する部屋へと案内される。  ここはどうやら応接間のようだ。落ち着いた大きなソファ、それに合わせたテーブルが置かれており、麗蘭は案内される前に早足でそこへ向かっていた。 「……こちらで少々お待ちください。凜華様、黒老大(ヘイロウタイ)をお呼びしていただけますか?」 「はーい」  呼ばれた凜華は麗蘭の隣に座ろうとしていたのか、ソファの近くに立っていた。そこから移動し、今度は春鈴とともに入り口のドアの方へ立つ。  春鈴が一礼をすると、二人は部屋を去っていった。  一人残された麗蘭。何をしていればいいのか、と考えながら再び部屋を見渡す。  一体何人もの男に股を開き、何度穿たれ、どれだけお金を稼げばここにあるものを買えるのだろうか、麗蘭の頭の中はそのことばかりで埋め尽くされていた。  テーブルとソファ以外のものを見ようと移動したところで、ドアが開けられて思わずそちらを見ていた。  何かが入った箱を持った春鈴がやって来た。麗蘭の姿に顔をしかめながら、彼の方へと近付いていく。 「……あまり、詮索しない方があなたの身のためですよ。さぁ、座ってください」 「いや、俺は別に詮索なんて……」  麗蘭が座ったところで春鈴は淡々と箱から消毒液とガーゼを取り出す。雑に縛られた布を取り去り、傷口を確かめ、上腕の擦り切れたところへガーゼを当てると、そのまま消毒液を掛けていく。 「いっ!」  傷口に沁みる痛みを堪えながら手当てを受け、少しずつ腕の血痕がなくなっていく。全身をピンと伸ばしながらじっとしている麗蘭。痛みに反応して勝手に涙が出てきたのか、目が少し潤んでいる。  手慣れている様子の春鈴の、テキパキとした動きにより、麗蘭の腕には擦り傷が残るのみである。消毒液に浸ったガーゼを離し、次に手にしたのは新しいガーゼと包帯であった。  傷を覆い、ぐるぐると包帯を巻いていく。きつくはないが簡単に解けない、そういった加減で巻いていく春鈴の手際に、麗蘭は思わず見惚れていた。 「痛かったですか?」 「いや、大丈夫だよ。手慣れてるんだね。どうもありがとう」

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