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第7話

「おにいさんは?」 「ん?あぁ、名前か。俺は吉野。吉野染。言いやすいように好きに呼んでくれ。白司、改めてよろしく」  染はしゃがんで座っている白司と同じ目線に合わせる。お風呂にも入りご飯を食べてエネルギー補給もできたのか、真っ白だった顔には少し火照りが見えている。 「白司、夜ご飯は何がいい?」 「んー。何でもいいよ」  誰しもが使う、困った時やパッと食べた物が決まらない時の得意返事。染はその返答を聞いて困ったように頭を手で掻いた。 「じゃあ、質問を変えよう。白司は何が好きだ?」 「……」  沈黙が続いても、染が白司から目を離すことはしない。 「おにいさんと食べれるなら、何でもいい」  返答から答えは出なかった。『染と一緒に食べたい』その意志だけは伝わった。人間らしいその可愛い要求に、染は微笑んで「りょーかい」と受け入れた。 「食材買いに行って来るから家にいろよ。出ていきたいなら出てってもいいけど」 「分かった。自由に過ごすよ」  リビングにごろんと仰向けになり寝転がる白司の姿が「出ていかないよ」と態度で染に示した。家からは出ない。同じ食卓を囲んで食事をしたいと言っているのに、そして、その願いをすんなりと受け入れて叶えようとする獲物が目の前にいるのに安易に「じゃあ。さようなら」なんて事になり得るはずがないと染は分かっていた。  それでも、一人になれる空間と時間を彼に与えたのは、白司との出会いが夢なのではと染自身が一人になりたかったからだ。 (家から出て、帰って来れば今朝と何も変わっていない部屋があって、少年とは出会ったのは幻覚で、俺の指先は凍ったみたいにずっと冷たいままなんだろな。きっと……そうだ) ―――  中身いっぱいのスーパーの袋を片手に下げて、家に染は帰ってきた。もう、その重さに耐えている指先の色は紫色で、感覚は遥か前に無くなってる程冷たくなっていた。白司が出ていくかもしれないので、鍵は掛けずに行った為、鍵穴に鍵を指す行為はせず玄関のドアをガチャリと開ける。 「ただいま」  帰ってきたことを知らせても返事は無い。白司と出会ったのはやっぱり夢だったのか。  重たい荷物をキッチンに置くとドサッと音がする。電気もついていない、西日の差すリビングに向かうと、足先が何かに触れ不思議に見下ろす。 「……っうお!」  そこには瞳を閉じて、小さく丸まった状態ですやすやと眠る白司。  当たった程度だけれど、少し足で蹴ってしまい自身が不注意だったと思う罪悪感とそこに確かに居る白司への安堵感が入り交じる。  その場にしゃがみこんでそっと、気づかれないように眼に掛かる白司の白い前髪を横に流して、無防備に開かれた白司の掌に染は自分の大きな手を重ねた。 (やっぱり熱い。これは現実だ……)  体温が伝わるのは、相手がいるから出来ることだ。それを実感した染は、更に白司の熱さを求めてもう片方の手も、その手に重ねた。手の甲も掌から伝えられた白司の熱を中心に、染の凍り切った全身をじんわりと溶かしていくようだった。今まで染が手にしても溶けなかった氷が、白司によって掌で溶けていくイメージを染はこの瞬間初めて脳内で再現できた。 「ん……んぅー」  重ねていただけの染の手は、白司の手に包みきれてはいないが優しく両手で握られる。  その後、口元だけを左右に伸ばして微笑む白司に、染はドキッとする。 (野郎相手に何ドキドキしてんだよ。俺……)  頭を大きく左右に振って、また染は名残惜しそうに白司の手から離れた。

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