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第1話
此処は都内某所にある森で覆われた学園-私立威津宮学園-。日本を代表とする財閥の1つである阿武隈家が運営する一流財閥が多く所属する幼稚園からの高校まで付属する学校である。
創立者の嗜好の元学園は細部に当たりとても豪勢で誰もが学校とは思わないその様は当に西洋に存在する城のような造りである。
そんな学園に5月の季節外れの転入生が1人訪れた。
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この学園は所謂王道学園らしい。らしいというのは少々腐敗している姉から聞いた話であるから確信は無いのだが。森の中にある、中々に不便な場所の全寮制男子校であるこの学園。ここの系列は幼稚園からあるが中学からは男女別れて存在しており思春期に入った者達がこのような辺境の地に缶詰にされたら…分かるだろう。
俺もとい、町村健吾は高校からの外部生で入ってきて最初は学園独自の風習に戸惑いはあったが1年もいれば案外慣れ、今はまぁまぁ自由に過ごせている。
今年の春、2年に上がったもののクラスは持ち上がりなのでクラスメートは変わりない。いつもの窓際の席に座れば丁度担任が来る。
「おはよー、お前ら。元気にしてたか?」
なんかのアイドルかのようにウィンクをするふあふあな茶髪に両耳ピアスをし胸元が開いたワイン色のシャツに白衣を着た何処ぞのホストの様な担任に悲鳴が飛ぶ
「キャー、奈央様ステキー!」
「抱いてー」
「抱かせろー!」
教室中から黄色の悲鳴が飛び交う。(これでも男子校)まぁ、小柄な生徒は当に黄色だが中にはガチムチマンも居るから焦げ茶色と言った方がいいか。
1年からずっと毎朝毎朝同じような事を繰り返しよく飽きないなと前を向くと不意に担任である、新海奈央と目が合う。
ニコニコと笑っていた顔が一瞬にして獲物を狙っているが如く目を細め高圧的なソレに変わる。
ゾワリ、と一気に鳥肌が立った。
「そんなに怯えてどうした健吾?まだ俺に慣れてない様なら放課後一緒に居残りするか?」
獲物を捉える表情から一気に破顔し誰もが惹かれる笑みで言うあの担任はとても危険だ。去年思う存分この身をもって学んだ事だ。今でも恐怖に怯えて身体の震えが止まらない。
「ふふ、全く可愛いな。」
口元に手を当て微笑む姿に再び生徒達は狂喜乱舞する。
担任だけでなくクラスメートも全員出ないが中々にヤバイ気がする。
「あ、そうそう。転校生が来てるから紹介する。入ってこい」
担任が扉の向こうに立っているであろう転入生に声をかける。この学園の編入試験は中々の難易度であまり他所から入る生徒は少ない。去年は俺を含め編入生が3人ほどであった。しかも今回は5月の半ばの半端な時期だ。(もうちょい早くこいよ)
だからか転校してくる未だ見ぬ姿にクラスメートは期待が高まっている。
「かっこいい人かな?」
「綺麗な人がいいなー」
「変装してこないかなー」
など口々に言っている。結構な大きさで言うものだからそれは無意識にハードルを上げ転入生にプレッシャーを掛けているのではないかと思った。
ばーん、と大きな音を立てて扉を開け入ってきたのは黒いモジャモジャの頭の瓶坂メガネ少年だった。
「ギャー不潔」
「今時こんなのいんのかよ」
「来たー!王道転校生」
罵倒が飛び交う中(喜んでいるのが若干名)冷静に観察する。アレはー
「藍川悠。よろしくお願いします」
奴の持っている鞄についているあのキーホルダーは超激レアのガンガン様じゃないか!もしやあの知名度が低すぎて打ち切りとなったアニメ“ロビットスーツ”のファンなのだろうか。
“ロビットスーツ”とは簡単にいうなら、強化ロボットスーツに身を包み悪と戦う戦隊モノだ。たんに悪と戦うヒーローなのだがストーリーがめちゃくちゃいい。一人一人にそれぞれの成り立ちがあり背景がありそこらのアニメとはまた一味違った考えさせられるアニメであったが、子供向けの筈が思考が大人すぎて視聴者層がぶれコアなファンに惜しまれながらも打ち切りが決まった(俺の中で)伝説のアニメだ。
主人公司は幼い妹と2人暮らし。両親は既に他界し親戚も居らず1人手でまだ幼い妹の面倒を見なくてはならない高校生だ。既にここから胸熱展開である。ロボットスーツとの出会いは、
ーーキーンコンカーンコーンーー
は、かつての伝説のアニメについて熱く語っていたら1時限目が始まるチャイムが鳴っていた。
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当然の如く1時限目の生物の準備が終わらず目敏く見つけられた担任から放課後居残りを告げられた。
(やっぱり残るのかよ…ガタガタ)
「健、やっぱり担任に目を付けられるよねー」
4時限目が終わり昼休みに入ると茶髪のボブカットで目がくりくりの一見女子の様な見た目である友人の氷川姫蘭が来た。
「なんで俺に突っかかってくるんだろう。…怖い。」
「はぁ、そういう態度がああいう変態を喜ばせるんだよ」
やれやれ、と言わんばかりにため息をつく姫蘭。というか担任、生徒に変態呼ばわりされてまっせ。
「お腹すいたから早く食堂行こうよ!」
「え、食堂行くの?」
もう、はやく!と言われ無理やりに腕を引かれ食堂へと向かう。在中している敏腕のシェフが作るランチはとても美味しいのだが、あそこはカオスな場所であり決して有意義に昼食を取れる場所でないと知っているからこそ行くのを拒むが姫蘭はそこの日替わりデザートをいたく気に入っているためいつも無理矢理俺を連れて行くのだ。
目の前には魔の戦地である食堂に繋がる厚い扉がある。俺らは決心をし防御力最大の耳栓を着用する。
「姫ー!今日も大変美しいです」
「今日こそ抱かせて、姫」
「健吾ちゃーん。今日の朝階段踏み外してたの可愛かったよ!」
「ハァハァ、健吾様、今日もハァハァ麗しい、ハァハ、ハァハァ」
姫もとい姫蘭はその可愛らしい容姿でとても人気でこの様な歓声がよく上がる。一方俺の場合何故かストーカーぽい人や変態みたいな奴が凄い声をかけてくる。
うわ、真っ赤な顔した息荒い人と目があった瞬間恍惚な表情をしその場に蹲った。ねぇ、俺を見て何があったの?…ナニ?怖すぎる。
「そういう怯えた表情があいつらのエサなんだから気をつけなよ健」
姫蘭が同情の目をして肩に手をやった。はい、自身の身を守るため頑張ります。
なんとか歓声地獄から抜け出せた俺らはなんともハイテクなタブレットで料理を注文した。
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