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朱と四色の従者
「「「「おめでとうございます!」」」」
従者たちから祝ぎを受けている。
今は百合の様子を見に行っている茨木 からの知らせで、
色々と進めていた事がうまく運んだことを知った。
だが、どう伝えれば良いのだろうか?
ここのところ臍を曲げていることの多い、俺のお姫様にどうすれば喜んでもらえるのか?
「お姫様がどうすれば喜ぶのかわからん。」
俺は悩んでいた。
俺がこのような状態になるなんてことは滅多に無い。
これが恋煩いというやつか?
この歳まで欲求の解消でしか他人と付き合ったことはない。
友人と呼べるものも緋 くらいで他には居ない。
部屋で寝ている俺のお姫様を想い、思わず呟いた。
今、俺の居るこの部屋には、俺の従者たちが定期報告と食事などを持ってきている。
「はぁ…若に春が来たのはとても喜ばしいのですが、うちは嫁に殴られましたよ。」
従者の一人、【青】の星熊 が話す。
こいつは青の名を持ち、こいつらの中で一番の変わりものだ。
その顔には青あざがある。
とても強く頑丈な鬼であるこいつに痕を残すなど、相当なことをされたと思うが、どうしたんだろうか?
「百合 様を娶るためにしたことが…私を真似たものだと、若が…后陛下に伝えたものですから…」
「事実だ。」
この星熊は【運命】と番っている。
三十年ほど前に人族 の貴人を見初め、攫うようにして娶った。
他の四童子からは『老いらくの恋』などと言われ、からかわれていた。
「ですがね、うちの松 が思い出して怒り狂ったのと、うちの子が【青】に婿入りすることになって大変です!」
声を荒げ俺に募る星熊。
もともとこいつが興した家ではあるが、現在は離れ、一切の関与をしていない。
四童子の興した【四家】は人族などで言うところの貴族のようなものだ。
一族の中で様々な役目を担っている。
「お前の血がまた入るのか。あの家は厄介なことになっている。少し掃除をするので丁度良い。」
渋い顔をしているこいつに俺はこれからの予定を伝える。
先日から父に訴えていることだが、なかなか許可が出ない。
百合が俺に嫁ぐまでに片付けなければ、落ち着いて来れないだろうから、この件は急ぎ片付けたいのだが。
この俺に呪詛なども掛けて来る阿呆共なども居るというのに。
あの糞親父め。
「あぁ…群青済まない…。」
胸の前での手を組み、どこかに向かって祈りながら何かを話す。
「菖蒲 君はどこか黒い子だから苦手なんだが、二人ならなんとか【青】も立て直せるだろう。彼を孕ませて連れてきたから怒りはしたが、父は複雑だ…」
まだ何か呟いている星熊は放っておく。
他の従者たちが肩を叩いたり、何か言葉をかけて励ましているが、星熊の落ち込みようはなかなか酷い。
【青】の家は『彼方 』から来た魂を持つものがよく生まれる。
故に、こちらには無い知識や価値観、技能を持つものが沢山いる。
だからこそ重宝されるが、時に厄介なことになる。
今が正にそうだ。
俺のろくでもない、兄や姉と呼ぶのもおこがましい、【名】も角さえも持たないあいつらを使い、何かをしようとしているらしい。
そういえばあいつらも近いうちに始末しなくてはいけない。
親父は『私は忙しい』だの『面倒だ』など言っては処分を先送りにしている。
『神 』の【末端】、ろくでもないものを始末して、この皇宮で暮らしやすくするまで、俺のお姫様を俺の部屋から出したくはない。
『彼方』の価値観で鬼が天下を取るだとか、年長のものが継ぐのが正しいだとか言っているが、あれらは力を持たんし、【識 】る事も出来ない。
そもそもの条件である【至】る事さえ不可能だ。
他の従者たちが報告などをする。
「百合様はお菓子がお好きみたいですから、色々と京 の市で手に入れてまいりました。」
【緑】の熊が話す。
こいつは緑の名を持つ。温厚そうに見えて実は切れやすい。
星熊の次に厄介なやつだ。
確かに百合は、菓子が好きで良く食べる。
前に一番肥えて美味そうな鯉を食べさせたが、『僕は魚を好まない。臭い!』と一蹴したな。
あいつは少し偏食のきらいがある。
肉や魂を与えているが口直しに菓子ばかり喰っている。
「若が閨でずっと可愛がられていますので、あまり着る機会も少ないとは思いますが、若の色や【華】の柄の着物なども仕立てております。」
【赤】の虎熊 も話す。
こいつは俺と同じで赤の名を持つ。
この世界の気質が強く、こいつらの中で一番の激情家だ。
百合の銀髪銀目で真っ白な肌に俺の朱は似合うだろう。
その肌に在る、俺の【華 】と同じ柄も良いな。
何も身に付けず閨に籠もっていた時もなかなか良かった。
俺の【華】があいつの真っ白な肌に良く映え、素晴らしく美しい。
見ているととても嬉しい気持ちになる。
そしてもっと【華】を咲かせたくなり、抱いてしまう。
…それではいかんとは思うのだが、なかなか難しい。
「ところで若は百合様とどんなお話をされるんですか?私どもと話すようにはいかないでしょう?まだまだ力も足りないでしょうし…」
最後に【黄】の金が話した。
こいつはこいつらの中で仲裁役をしている。一番温厚な性格のやつだ。
俺のことも一番の世話を焼いたのはこいつだった。
百合は純血の鬼だけはあり、あの歳ではかなり強いがこいつらには遠く及ばない。
歳を経ているうえに強い魂を持つ、四色の従者は俺ともある程度の会話ができ、今のように【域】に居るのも苦ではない。
ふと周りを見回す。
日にちや時間の感覚などが失われる、空っぽの世界。
俺の世界は空虚で、そこに長く居れば気が狂う。
亜神 の領域である【域】は俺の精神 だ。
何もなく空っぽ。
未だ成熟しない俺を反映している。
だからその力に反して、俺の従者は力の強いもの、この四人と茨木しかいない。
心の弱いΩなどは気を病んでしまうかもしれない。
百合には発情期の時に過ごさせたが、平時はまだ分からない。
俺のお姫様が狂うのは見たくない。
「毎日抱いて、愛を注ぎ、俺の【華】を咲かせている。あれと睦み合うとき、少し箍が外れたときには語ることもあるな。」
語りあうことは難しいが、愛だけはたっぷりと与えている。
もう少しで【域】で多少話せるくらいにはなるかと思うが。
「はぁ…肉体言語だけではいけませんよ。ですが若は自由に喋れませんしね…」
「そんなことでは逃げられてしまいますよ。私も松に家出を何度もされました。」
「若はありえないほどの巨根のうえに絶倫ですから、嫌がられませんか?」
「あの性癖は嫌がられますから暫くはやめないと駄目ですよ!」
困った顔をして口々に話す従者たち。
俺に対してこういった小言を言うのは、こいつらか茨木とその母くらいだ。
母上は俺をアホと呼び叱るが、俺に物凄く甘い。
…親父は論外だ。
「俺のことを何だと思っているんだ?」
従者たちに少し、苦情を言う。
「「「「百合様のおかげで、若のお相手をすることがなくなりそうですから、我らも必死です!!!」」」」
仕方のない事ではあったが、俺だって悪いとは思っている。
どうしようもない欲求と衝動の時には、こいつらか茨木くらいしか俺の相手は出来ない。
『壊れない』、『側にいたから。』百合にそう伝えたが、あいつも呆れていた。
親父も何人かはαの妾がいるが、似たような理由だろう。
母上が悲しむ姿を見てなんとも思わないのが腹立たしい。
俺はそんなことをしたくはないので、まずは囲っている奴らを開放することにした。
百合を娶ることと合わせて母上に伝えた。
俺の囲っている奴らは、殆どが罪を犯したものたちだ。
Ωの場合は番が犯した罪を共に償うと言い、奴隷落ちするものが多数だ。
それに温情をかけて救っていればきりがないので、共に奴隷に落としている。
これは昔から変わらないそうだ。
他には番に先立たれたものなどだ。
可哀想に気が触れたものや、俺の様にどうしようもない欲求を抱えて、苦しんでいるものを相手にしている。
そういったものたちをまとめて管理するのも茨木の仕事だ。
あいつは、一族の刑罰などを担当している。
「長らく面倒をかけたな。」
これは本心だ。
俺の育ての親たちには本当に色々と世話になった。
「「「「自分の子よりもよほど手間暇かけて、更には色々とお世話した、若様の幸せをお祝い致します。」」」」
嬉しいことを言ってくれる。
こいつらは親父よりも余程、俺の父親のような事をしてくれた。
「まだΩとしてお目覚めにならなくて良かったです!」
「このままだと誰かが本当に、若の処女を貰わないといけませんでしたから…」
「本当にそれだけは避けたかったので良かったです!」
「いずれΩとしても目覚められるので、百合様には感謝しかございません。」
こいつらは…【呪 】で縛ってやろうか?
ん?
百合!!!
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