11 / 25

朱と四色の従者

「「「「おめでとうございます!」」」」 従者たちから祝ぎを受けている。 今は百合の様子を見に行っている茨木(イバラキ)からの知らせで、 色々と進めていた事がうまく運んだことを知った。 だが、どう伝えれば良いのだろうか? ここのところ臍を曲げていることの多い、俺のお姫様にどうすれば喜んでもらえるのか? 「お姫様がどうすれば喜ぶのかわからん。」 俺は悩んでいた。 俺がこのような状態になるなんてことは滅多に無い。 これが恋煩いというやつか? この歳まで欲求の解消でしか他人と付き合ったことはない。 友人と呼べるものも(アケ)くらいで他には居ない。 部屋で寝ている俺のお姫様を想い、思わず呟いた。 今、俺の居るこの部屋には、俺の従者たちが定期報告と食事などを持ってきている。 「はぁ…若に春が来たのはとても喜ばしいのですが、うちは嫁に殴られましたよ。」 従者の一人、【青】の星熊(ホシクマ)が話す。 こいつは青の名を持ち、こいつらの中で一番の変わりものだ。 その顔には青あざがある。 とても強く頑丈な鬼であるこいつに痕を残すなど、相当なことをされたと思うが、どうしたんだろうか? 「百合(ユリ)様を娶るためにしたことが…私を真似たものだと、若が…后陛下に伝えたものですから…」 「事実だ。」 この星熊は【運命】と番っている。 三十年ほど前に人族(じんぞく)の貴人を見初め、攫うようにして娶った。 他の四童子からは『老いらくの恋』などと言われ、からかわれていた。 「ですがね、うちの(マツ)が思い出して怒り狂ったのと、うちの子が【青】に婿入りすることになって大変です!」 声を荒げ俺に募る星熊。 もともとこいつが興した家ではあるが、現在は離れ、一切の関与をしていない。 四童子の興した【四家】は人族などで言うところの貴族のようなものだ。 一族の中で様々な役目を担っている。 「お前の血がまた入るのか。あの家は厄介なことになっている。少し掃除をするので丁度良い。」 渋い顔をしているこいつに俺はこれからの予定を伝える。 先日から父に訴えていることだが、なかなか許可が出ない。 百合が俺に嫁ぐまでに片付けなければ、落ち着いて来れないだろうから、この件は急ぎ片付けたいのだが。 この俺に呪詛なども掛けて来る阿呆共なども居るというのに。 あの糞親父め。 「あぁ…群青済まない…。」 胸の前での手を組み、どこかに向かって祈りながら何かを話す。 「菖蒲(アヤメ)君はどこか黒い子だから苦手なんだが、二人ならなんとか【青】も立て直せるだろう。彼を孕ませて連れてきたから怒りはしたが、父は複雑だ…」 まだ何か呟いている星熊は放っておく。 他の従者たちが肩を叩いたり、何か言葉をかけて励ましているが、星熊の落ち込みようはなかなか酷い。 【青】の家は『彼方(あちら)』から来た魂を持つものがよく生まれる。 故に、こちらには無い知識や価値観、技能を持つものが沢山いる。 だからこそ重宝されるが、時に厄介なことになる。 今が正にそうだ。 俺のろくでもない、兄や姉と呼ぶのもおこがましい、【名】も角さえも持たないあいつらを使い、何かをしようとしているらしい。 そういえばあいつらも近いうちに始末しなくてはいけない。 親父は『私は忙しい』だの『面倒だ』など言っては処分を先送りにしている。 『(アレ)』の【末端】、ろくでもないものを始末して、この皇宮で暮らしやすくするまで、俺のお姫様を俺の部屋から出したくはない。 『彼方』の価値観で鬼が天下を取るだとか、年長のものが継ぐのが正しいだとか言っているが、あれらは力を持たんし、【()】る事も出来ない。 そもそもの条件である【至】る事さえ不可能だ。 他の従者たちが報告などをする。 「百合様はお菓子がお好きみたいですから、色々と(みやこ)の市で手に入れてまいりました。」 【緑】の熊が話す。 こいつは緑の名を持つ。温厚そうに見えて実は切れやすい。 星熊の次に厄介なやつだ。 確かに百合は、菓子が好きで良く食べる。 前に一番肥えて美味そうな鯉を食べさせたが、『僕は魚を好まない。臭い!』と一蹴したな。 あいつは少し偏食のきらいがある。 肉や魂を与えているが口直しに菓子ばかり喰っている。 「若が閨でずっと可愛がられていますので、あまり着る機会も少ないとは思いますが、若の色や【華】の柄の着物なども仕立てております。」 【赤】の虎熊(トラクマ)も話す。 こいつは俺と同じで赤の名を持つ。 この世界の気質が強く、こいつらの中で一番の激情家だ。 百合の銀髪銀目で真っ白な肌に俺の朱は似合うだろう。 その肌に在る、俺の【(分身)】と同じ柄も良いな。 何も身に付けず閨に籠もっていた時もなかなか良かった。 俺の【華】があいつの真っ白な肌に良く映え、素晴らしく美しい。 見ているととても嬉しい気持ちになる。 そしてもっと【華】を咲かせたくなり、抱いてしまう。 …それではいかんとは思うのだが、なかなか難しい。 「ところで若は百合様とどんなお話をされるんですか?私どもと話すようにはいかないでしょう?まだまだ力も足りないでしょうし…」 最後に【黄】の金が話した。 こいつはこいつらの中で仲裁役をしている。一番温厚な性格のやつだ。 俺のことも一番の世話を焼いたのはこいつだった。 百合は純血の鬼だけはあり、あの歳ではかなり強いがこいつらには遠く及ばない。 歳を経ているうえに強い魂を持つ、四色の従者は俺ともある程度の会話ができ、今のように【域】に居るのも苦ではない。 ふと周りを見回す。 日にちや時間の感覚などが失われる、空っぽの世界。 俺の世界は空虚で、そこに長く居れば気が狂う。 亜神()の領域である【域】は俺の精神(世界)だ。 何もなく空っぽ。 未だ成熟しない俺を反映している。 だからその力に反して、俺の従者は力の強いもの、この四人と茨木しかいない。 心の弱いΩなどは気を病んでしまうかもしれない。 百合には発情期の時に過ごさせたが、平時はまだ分からない。 俺のお姫様が狂うのは見たくない。 「毎日抱いて、愛を注ぎ、俺の【華】を咲かせている。あれと睦み合うとき、少し箍が外れたときには語ることもあるな。」 語りあうことは難しいが、愛だけはたっぷりと与えている。 もう少しで【域】で多少話せるくらいにはなるかと思うが。 「はぁ…肉体言語だけではいけませんよ。ですが若は自由に喋れませんしね…」 「そんなことでは逃げられてしまいますよ。私も松に家出を何度もされました。」 「若はありえないほどの巨根のうえに絶倫ですから、嫌がられませんか?」 「あの性癖は嫌がられますから暫くはやめないと駄目ですよ!」 困った顔をして口々に話す従者たち。 俺に対してこういった小言を言うのは、こいつらか茨木とその母くらいだ。 母上は俺をアホと呼び叱るが、俺に物凄く甘い。 …親父は論外だ。 「俺のことを何だと思っているんだ?」 従者たちに少し、苦情を言う。 「「「「百合様のおかげで、若のお相手をすることがなくなりそうですから、我らも必死です!!!」」」」 仕方のない事ではあったが、俺だって悪いとは思っている。 どうしようもない欲求と衝動の時には、こいつらか茨木くらいしか俺の相手は出来ない。 『壊れない』、『側にいたから。』百合にそう伝えたが、あいつも呆れていた。 親父も何人かはαの妾がいるが、似たような理由だろう。 母上が悲しむ姿を見てなんとも思わないのが腹立たしい。 俺はそんなことをしたくはないので、まずは囲っている奴らを開放することにした。 百合を娶ることと合わせて母上に伝えた。 俺の囲っている奴らは、殆どが罪を犯したものたちだ。 Ωの場合は番が犯した罪を共に償うと言い、奴隷落ちするものが多数だ。 それに温情をかけて救っていればきりがないので、共に奴隷に落としている。 これは昔から変わらないそうだ。 他には番に先立たれたものなどだ。 可哀想に気が触れたものや、俺の様にどうしようもない欲求を抱えて、苦しんでいるものを相手にしている。 そういったものたちをまとめて管理するのも茨木の仕事だ。 あいつは、一族の刑罰などを担当している。 「長らく面倒をかけたな。」 これは本心だ。 俺の育ての親たちには本当に色々と世話になった。 「「「「自分の子よりもよほど手間暇かけて、更には色々とお世話した、若様の幸せをお祝い致します。」」」」 嬉しいことを言ってくれる。 こいつらは親父よりも余程、俺の父親のような事をしてくれた。 「Ωとしてお目覚めにならなくて良かったです!」 「このままだと誰かが本当に、若の処女を貰わないといけませんでしたから…」 「本当にそれだけは避けたかったので良かったです!」 「いずれΩとして目覚められるので、百合様には感謝しかございません。」 こいつらは…【(しゅ)】で縛ってやろうか? ん? 百合!!!

ともだちにシェアしよう!