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おまえにしか勃たな以下略。それを食べないと以下略。
鬼の子を身籠ると、物凄く腹が減るというのは話したかと思う。
《あー、リリィがバカみたいに食べて、シュテンが飢餓状態だったとかいうやつか》
《兄弟殺して食ったとかいう凄い話の時のあれか。》
《やっぱりそのへんはモンスターとしか言いようがないな。》
うん、そうなんだよ。
元々、あいつはとんでもない大食いで、その子供がお腹にいることと、あいつの番にされ、力が日に日に強くなっていっている私は本当に辛かった……
マリー になってからランディ を身籠った時はそんなことが無く、逆の意味で涙を流したくらいだが、あの頃の私は常にお腹が空き、食べていないと気持ちが悪くて仕方がなかった。
《人によって違うものね。私はそれまで嫌いだったものが食べたくなったわ。》
《私はなにも食べれなかった方ね。》
もうバカスカあいつを食べて、持ってきたクソ不味かった肉とかも食べて、それでもお腹が空いて空いて…食べ悪阻の酷いやつだな。
もう、気分とかは最悪なのに色々と学ぶことも多くて、本当にストレスが溜まっていた。
《うんうん。》
《旦那を殴りたくなるわね。》
《アンタが産めって言いたいときがあったわ。》
それに子供には父親の精が必要だから…まぁ、そういう事もそれまで以上にしていた。
どう考えても、あの年齢であれはなかったな。
私の価値観とか諸々があの頃に木っ端微塵に破壊されたかと思う。
ん?
《ボソボソ…女性陣の顔が怖い…なんか話を変えよう》
《あー…ワインにうるさいのにフランス でなく、アメリカ のやつの方がなんで好き?》
私は美味しければどちらでも構わない。
まぁ…酒に関してだけは味覚もまともなのかもしれないね。
何しろあいつは【酒呑 童子】とも言われていたからね。
その妻の私ならさもありなん。
◇◇◇
「俺のお姫様。たんと精をやっている。足らんか?」
何度目になるだろうか忘れたが、僕の胎 に精 を注ぎ続ける僕の夫。
優しく僅かに膨らんできた腹を撫で、僕を抱き、上から見遣る視線は優しく、温かい。
こんな表情も出来るのかと最初は思った。
だが、今は悪いな。
長い吐精の間もずっと中に留まり、いつもの様に僕の善いところを、的確に強く、時に弱く突いて来るこいつに声をかけた。
「し、朱点 、僕は…お、腹が…少、しキツい…」
僕の妊娠が発覚し、こいつの嫁…妃になって、正式にこいつの部屋に住むことになった。
僕自身の部屋もあるが、あまりの使う事もなさそうなのが恐ろしい。
妊娠の初期は抱くのを控えていたが、それからはお腹の子の為にもあいつの精が必要なので、今まで以上に抱かれている。
僕は悪阻が酷く、常に何かを食べないと気持ちが悪くて辛い。
そんな僕にこいつはせっせと例の給餌行動をする。
僕は!肉とか魂とか、そんなもんはもともと食わん!!
別のもんを寄越せと何度言えばわかる!!!
『なんでこんなもんばっかり持ってくるんだよ…お菓子は?』
『それを食べないと大きく、強くなれない。困る。菓子はいかんと茨木 などに止められた。すまんな。』
これである。
くっそ不味いのに『お菓子はしばらく駄目ですよ。』と言い渡されていて、口直しもできない。
最悪だ。
本当にイライラが止まらない。
それに身籠った事もあるが、Ω的な成長も迎えた為か、非常に涙脆くなったのも嫌だ。
こいつに当たり散らした後で、こっそり泣いたりしている。
僕はどちらかというと姉様から『お前はクソ生意気だね』と言われる様な感じなのに。
色々と優しく気遣うこいつに酷い態度であたっている。
まぁ、僕は良いとこの子だったから、茨木 や他の従者とかの前では絶対に、こいつの前でしている様な態度はしない。
『お妃様は控えめで淑やかな方ですね』などと言われているし、思われている。
…………自分で期待を上げてしまった気がする。
「どうした?腹でもへっているのか?」
その顔は心配そうにしているが…腹立たしい。
僕の苦悩の元凶は今も僕をガンガン責めて好きに抱いている。
こいつ!ぶん殴ってやろうかマジに。
「ひっ、あぁ…ぁああ、う、ん、お前、ちょっ…と、控えろ」
いくら鬼の子には親の精がいるとはいえ、ヤリ過ぎで苦しい。
本当は周りも少し…呆れているかと思う。
医術の心得のある茨木に必要な事だからと、こいつとしている閨での事を聞かれたので話したら、物凄い形相になってた。
なんとなく、察した四童子たちも『若なんてことを……お妃様、頑張ってください…』などと言われた。
幼い僕の妊娠に誰もが頭を抱えたが、中でもお義父様の怒りはかなりだったようだ。
あの時は体が半分【消去 】れていた。
それでも生きてるとか…お前は本当に凄いな。
流石【亜神】の子だな…
お義母様が取りなして、僕のお腹の子には親の精が必要ということで、それが許されるまで凄く大変だった。
お前、ほんっとに問題児過ぎだろ!
「好きなだけ持っていって構わん。」
抽挿する勢いを少し落とし、僕を見てにこにこと笑う僕の夫、朱点。
お前、本当に機嫌が良いよな。
発情 にもなったし、一応αとして目覚めた感じで嬉しいのか、
僕を抱く時は本当に愛おしそうに、嬉しそうに僕を可愛がる。
それを見ると僕も嬉しくなるのはこいつには秘密だ。
それにこの頃は当たり散らしてばかりでごめんな。
でもな、今はそっちのお腹じゃなくて物理的にお腹が張ってつらいんだよ。
まぁ…このくらいなら大丈夫だとかお義母様には言われた。
お義父様も相当鬼畜だ。
こいつの父親なだけはある。
お義母様はこの間こいつが皆殺しにしたあの変な兄姉たちなどを、ポンポン産まされる様な生活をおくられていたから、本当に同情する。
僕もなんとなくそんな生活になりそうな予感がして、今からそれが恐怖だ。
こいつの嫁になってちゃんと紹介された、こいつの両親である両陛下は…
『百合 、母が亡くなりこういった経験のあるものは、あなたの周りでは私くらいしかいません。流石に今は旦那様も折れて私を外に出してくれていますので、何かあれば私を頼りなさい。
貴方のことは私も旦那様も、その朱点 よりも気にしています。どうか本当の母のように思って甘えなさい。
出来ればこんな可愛い子にはお義母様と呼ばれたいですね。』
そんな事を仰っしゃり、僕を大変可愛がってくださる。
はじめて対面するあの方のあまりの美しさと、その力に気圧され、お義母様と呼ぶことになった。
我が一族のαとΩの最高位の方で、守護者たる【亜神】様方と話すとか…本当に緊張した。
しかも僕はこいつの妃になったから、Ωの序列は上から二番目であの方に次ぐ……
…本当にどうしよう。
『妻 を母と呼ぶなら私もお義父様と呼ぶと良い。朱点 に嫁が出来るとはな…それもこんなに可愛らしくどこかお前に似ている。』
そう言って義母の肩を抱く。
『旦那様、私の言った通りの子でしょう?私たちの可愛いあの子の連れ合いはとても可愛らしいのです!』
『やはりこのあとは私の閨に籠ろう。』
着物のあわせから手を差し入れた…
『駄目です!あの子の嫁の為にしてあげないといけない事がたくさんあります。』
『頭の痛かったあれの問題も漸く片付いた。なぜ拒む。』
(お義母様のお体を弄り、今にも僕の前でも睦み合いそうなんですが……)
『あ、…ん、駄目です!百合 が見ています!』
(勘弁してください…これからの事を話しにきたはずなのに、あいつはボコボコにしばきたおされるし、それに…あの状態で放っておいてもよろしいんですか?流石に死にませんか?)
義父は僕を無視して、隣におられる義母を愛でていらした。
黒髪にこいつの右目と同じ色の金の瞳、こいつの兄と言っていいくらいに若々しい歳の頃にしか見えず、立派な体格でオスらしく凛々しく、秀麗なお顔立ちの義父は、ちびるくらいに恐ろしい雰囲気の方だ。
義母を見た僕を視線だけで殺しそうだし、食われそうだった。
『本当にお前の匂いは堪らんな。どんなものにもお前を見せたくはない。百合もΩだが、男であるし…そこは気に入らんな。』
『この子はあの子の嫁です!悋気はいけません。』
(なら僕の見ている前で義母と仲良くしないでください………
確かにお義母様の薫りは凄くて、僕にもわかるくらいですが、それはありませんから。)
『百合もお前の様にあれと番になっているのに、Ω の強い薫りがするな…あれも大変であろう。』
ゴミを見るような視線を転がっているあいつに遣り仰る。
(それに僕の薫りはそんなにヤバいんですか?
さっきあなたがしばきたおされそこに転がっている、あなたの息子もあなたに会わせるのを渋っていましたね。
あぁ…さっきからその視線が怖くて冷や汗が止まらないです。妊夫にそれはありませんから…)
義父はどこかこいつと似ていた。
ひとの話を聞かないし、閨に監禁したがるし、どこか コ ワ イ 。
『あれと契りを結んだ以上はお前も皇 のものだ。励むように。孫も楽しみだ、期待している。お前やこれに似た子だと良いな。』
『旦那様!!』
(本当にこんなこと望んでなかったのに!!)
けれどなってしまったのは仕方がないので、お義母様からΩの教育と、茨木からは鬼族の大人としての常識や礼儀など諸々を仕込まれることになった。
『正月にはあなたも参加する初めての儀式があります。これからしばらくはそれの為の勉強をしましょう。そこのアホはこれに関しては本当に役に立ちませんから、私も楽になり嬉しいです。』
『はい、お義母様。(…あいつは何か問題でも起こしたのか?)』
『既に魂の見極めは出来るかと思いますが、【名】を与える【祝福】や【お手つき】なんかを教えていきますね。』
『……眷属を持つのを朱点は許しませんが?(これも本当に困る。小間使いくらいは欲しい。)』
『まぁ、そのへんは追々交渉致しませんとね。自分の目や耳になるものや、護衛も必要ですからね。』
『あれもお前を必死に守るだろうから許してやれ。』
『旦那様!』
『従者とはいえ、腹が立つものは仕方がない。あれも私と同じ気持ちであろう。』
お義母様は大変優しく良い方だが、かなり常識離れされている。
本当なら数年かけてするべき事を詰め込みでされる為、かなり厳しい。
わりと僕は賢くて、天才などと言われていたから、知識とかは何とかなるけど、力の使い方とか振る舞い方とかは、全くわからないから慣れない。
しかも皇 の家のα共は、お義母様や僕ら番のΩが眷属を作るのを激しく嫉妬して止める。
父子仲の悪い皇様でさえ、息子の行動を擁護した。
従者の一人くらい許せよお前ら!!!
こいつは溺愛してくれているが、本当にこいつに嫁いだことが嫌になることが多い。
「はぁ…アホらし、じゃあ遠慮なく貰うがもう少し優しくしてくれ。お腹の子がびっくりするから。それに僕もつらい。」
「……わかった。」
お前なぁ…なんでそんな残念そうにするんだよ!
この子はお前が望んで、僕を無理矢理孕ませて出来たんだろうが!!
僕もそうだがお前は最近異常なくらいによく食べるし、性欲も異常だぞ!
いくら僕らが鬼族でも力が強くて、特に血が濃いものでもこれはおかしいだろ。
「なんか言いたいことがあるなら言えよ!」
「大丈夫だお姫様。お前こそ何もないか?」
本当にこいつは僕にだけ物凄く甘くて優しいんだよなぁ…
だから何も言えなくなる。
「言ってもお前はわかんないし良いよ。」
「そうか…」
僕を娶ってからのこいつは、食欲の解消の為にしかこいつの言う『囲っている奴らのとこ』こと後宮に行かなくなった。
屠殺場扱いされていて、そこにいる奴らに物凄く同情するが、一応犯罪者や奴隷以外は全て后陛下と話して開放したそうだ。
それでも僕はこいつが奴らの知らないΩ やα の匂いをつけて帰ってくるのが嫌だったが…
こればかりは仕方がない。
僕を引き留めた『お前にしか勃たない。』を、このとんでもない淫奔な放蕩息子が守っているということも、陛下方…お義母様やお義父様に認められたところらしい。
僕もそこは嬉しい。
この頃の僕は変わりすぎた環境や、【青】にいた頃と変わらず、無理難題を押し付けてくるものたちに腹を立てていた。
イライラが止まらず、こいつに酷い態度ばかり取る。
なのにこいつは僕にとても甘く、優しい。
与えられた地位により発生する、責任や義務を放り出すことはできない。
結局僕は【青】にいた頃と変わらない、いやそれ以上の窮屈さに参っていた。
そんな時に僕を訪ねてきたひとがいた。
「百合 、居る?」
◇◇◇
皆、黙り込んだね。
《上流階級に嫁ぐと大変?》
そうだね、私は前世も今も良いとこの生まれだけれど、それでも王族とかになると更に大変だし、あいつの素行の問題から、私の子が跡継ぎになることが確定してしまったからね…
《へ?シュテンは廃嫡されたのか?!》
《本当に問題しか起こしていないな…》
《リリィは胃に穴が開きそうだな。》
あ、更に雰囲気が悪いな。
廃嫡については、色々あってそうせざるを得ない状況になったんだよ。
《リリィもとんでもないやつを押し付けられたな…》
あいつもそんなに悪いやつじゃあないんだよ。
この時点ではよく分からなかったけれどね。
《力って何?》
うん、良い質問だね。
前にも話したかと思うけれど、鬼族の権能… Power とか authority ってものだけれど
鬼のΩは血を吸った相手に呪いをかけて【縛 】り、奴隷に下僕や従者として使うことができたり、
私には無理だがαの力を持つあいつは【消去 】ことによって魂レベルで存在を消滅させる事とかができる。
《は?!》
《それは凄いな…》
あちらの神は反則的 な存在が大嫌いで、鬼族には二つの大きな呪いがかけられている。
これらを利用して使えるようになったのが【権能】だ。
鬼族の上位のものは皆、一流の呪術師なんだ。
それで、私はその大きな力の使い方のレクチャーを義母から受けた訳だ。
《【亜神】とはなんだ?》
それはあと少し先で詳しく説明するよ。
それに言ったかもしれないが、あちらは神というのが本当に身近に存在して、感じれるものなんだ。
《やっぱりプロポーズの言葉はそれ?》
《それは本当にないだろう?》
《なんというか、それしか他に求愛の言葉はないの?なんか良いやつ?》
そう、この時点では『お前にしか勃たない。』だよ。
鬼族とエルフ族には共通で重視している価値観がある、それが求愛の言葉になる。
これも少し先で出るからまぁ…楽しみに?
《期待しているわ。》
《言っていたシュテンのロマンチックなやつだな。》
それから鬼族はその食性や呪いの影響から、大変性に寛容だ。だから貞操が異常に堅い私のほうがおかしいんだよ。
私と番になり、清い身を貫こうとしたあいつは凄いってことなんだ。
そういうこともあってあいつにときめいた。今でも不思議だけれど、言われたら多分また落ちるだろうなぁ…
《えぇ?!》
《いや、それはないだろう!》
《やっぱりマリーの感覚はおかしいから。》
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