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臀部へと触れたひんやりとした感触に、日向の意識はゆっくりと浮上する。
「……う、うん」
疲れた体はまだ休息を求めてはいたけれど、重たい瞼を少し開けば、シーツの白が視界一杯に広がった。
――あれ? 僕は……。
状況を把握しようと考え、うつ伏せのまま肩越しに背後を見てみると、上半身にはシーツが掛けられ尻の上には冷たいタオルが置かれている。
――あぁ、そうだ。僕はさっきまで。
思い出した丁度その時、部屋の扉がカチャリと開く音がして、視線を向ければそこには浩也が立っていた。
途端、意識を失う前の出来事を思い出し、日向は羞恥に頬を染める。
――あれは、たぶん……。
どんな顔をしたらいいのか解らないから、日向は視線を彷徨わせる。
浩也がなぜあんな事をしたのか? 日向は不思議で堪らなかった。それに、彼の怒りが解けたのかも判らない。
動揺して狼狽えるばかりの日向の様子がおかしかったのか? 浩也は喉でクスリと笑うと、持ってきたタオルを使って日向の顔を拭い始めた。
「あっ……自分で出来るから」
慌てた日向はそう言いながら体を起こそうとするけれど、『動くな』と浩也に制されその動きをピタリと止めた。
温かなタオルの感触が顔から首へと移動していき、噛み痕へと触れた時、鈍い痛みを感じた日向は僅かに体をこわばらせる。と、一旦その手を止めた浩也が、指先で確かめるようにうなじへと触れてきた。
「俺が怖いか?」
尋ねる声に顔を上げ、日向は首を横へと振った。
正直、怖いと思う事はある。
だけど、浩也が本当に冷たい人とは日向には思えなかった。
そんな日向の戸惑いを見透かしたように目を細めると「まあいい」と言った浩也は、突然日向の左足首に革ベルトを取り付ける。さらにそこから伸びる細い鎖をベッドの柱へ巻き付けて、取れないように南京錠をかけてしまう。
理由の分からぬ彼の行動に、日向の体はガタガタと勝手に震えだした。
「ヒナ、怖く無いんじゃなかったのか?」
意地悪な声が聞こてくるけれど、震えを止める事も、答える事も出来ずにいると、浩也が小さな溜め息を吐く。
「少ししたら客が来る。その間ここでじっとしてろ。帰ったら外してやるから、今は寝てろ」
言い終わると浩也はそのまま扉の向こうへ行ってしまった。
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