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番外編1
*最終章とepilogueの間、花火の夜のお話です*
「いただきます」
ベッドの上で体を起こし、浩也から借りたパジャマのシャツを羽織った日向は、手を合わせてお辞儀をした。
渡された皿に載せられているのはまたもや苺の山だったが、体が弱ってしまった日向には喉越しの良さが有り難い。
久々にはっきりとした空腹を覚え、日向は少しの間無言で苺を頬張っていたのだが、ベット脇にある椅子へと座った浩也の視線が気になって、途中でそちらへ視線を向ければ笑みを浮かべてこちらを見ている彼と視線がかち合った。
「北井くんも……食べる?」
あまりに見つめてくるものだから、浩也も苺が食べたいのかもしれないと思い、中の一つをフォークに刺して浩也の口元へ持っていくと、パクリとそれに食いついてきたから、ドキリとした日向の顔が熱くなる。
「可愛い」
思った事を先に浩也から言われてしまい、心拍数がさらにあがった。
急に恥ずかしくなった日向が視線を彷徨わせれば、「苺は好き?」と尋ねてくる。
問いに小さく頷くと、皿から苺を摘んだ浩也がそれを唇へとくっつけてきた。
口を開いて受け入れれば、彼の表情が嬉しそうに和らいだ。
そこから先は自分で苺を食べさせてもらえなくなって、次から次へと口へ運ばれる苺を少しずつ食べながら、羞恥に頬を染めた日向へと「可愛い」などとと浩也が何度も告げてくる。
「北井くんも……可愛いよ」
勇気をだして思っていた事を日向が告げれば、浩也は呆気にとられたような顔をした後、ぷっと吹き出した。
そんなの表情も初めて目にする類の物だから、嬉しくなった日向が微笑みを浮かべると、浩也の顔が近づいてきて触れるだけのキスを落とされる。
驚きに目を見開けば、去り際にペロリと唇を舐めた浩也は悪戯っ子のように笑い「甘いな」と呟いた。
***
「ヒナ、こっち」
シャワーを浴び、浩也から借りたTシャツとハーフパンツを身に付けてリビングへ足を踏み入れると、ベランダから自分を呼ぶ声がした。
開け放たれた窓からは風が入ってきていて、ずっとエアコンの効いた部屋にいた日向はその心地良さに息を吸い込む。
目を覚ましたのが昼過ぎで、苺を少し食べてからはベットの上で互いの話をポツリポツリと交わしながら、手を握ったり抱きしめられたり軽いキスを交わしたり……こんなに幸せでいいのか? と、不安になってしまうくらい甘い時間を2人で過ごした。
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