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結局頭を撫でられながら転 た寝をしてしまった日向が、次に目を覚ました時には辺りは薄暗くなっていた。
「どうぞ」
促され、広いベランダへと日向が足を踏み入れた時、開始を告げる音だけの花火が三度夏の空を揺らす。
「あ……」
浩也に手を取られ手摺りの場所まで異動した日向の瞳に、今度は次々と打ち上げられる綺麗な花火が映りこんだ。
「凄い……綺麗」
「ああ」
最初に打ち上げられたスターマインの迫力に、思わず魅入ってしまった日向の手摺りを掴む手の上へと背後から彼の手が重ねられ、包み込まれるような形に恥ずかしさを覚えながらも、日向の胸にじわりと温かな感情が込み上げてくる。
「来年は、もっと近くから二人で見よう」
耳元でそっと囁く声に何度も頷きかえしながら、どうしても止めることの出来ない涙が頬を伝い落ちる。
こんなに幸せな今日があるなんて、昨日の今頃は想像すらも出来なかった。
「どうした? ……どこか辛いのか?」
心配そうな浩也の声が鼓膜を揺らし、長い指が涙を掬い取るように触れてくる。
「ごめん。大丈夫……ただ嬉しくて」
だから心配しないでほしいと伝えれば、抱きしめてくる彼の腕にギュッと力がこめられた。
「ヒナ……愛してる」
小さな囁きは打ち上げられた三尺玉の轟音によって掻き消されそうになったけれど、それでも日向の耳にははっきりと届いており、一際大きなその花火は、先ほどから溢れ出している涙の膜で、万華鏡のようにキラキラと輝いて見える。
「ずっと一緒に居て欲しい」
さらに告げられた浩也の言葉に日向の心臓が音を立てた。
「本当に、僕で……いいの?」
いまだ信じられない気持ちがあるから思わず浩也を振り仰ぐと、穏やかな笑みを浮かべた彼が小指を目の前に差し出してくる。
「それは俺の台詞だ。俺で良ければ一緒にいてほしい。もうヒナに、辛い思いはさせないって約束する。だから……」
言い終わる前に日向は小指を差し出して、浩也のそれへとそっと絡めた。
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