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プロローグ

「あの。どういう事ですか? 何を仰っているのか よくわかりません。」 流川柚は目の前に座り 優雅にコーヒーを飲む男性に 戸惑ったようにそう言った。 じいちゃんの代から続くこの喫茶店 鳩時計を マスターとして引き継いで もう三年。 やっと最近 少しは何とかなってきたかな。。と ホッとしていた頃に 突然降ってきた 意味不明の爆弾。 何がなんだかわからない。 ジロッと睨みつけても 涼しい顔して。 この人。自分が何を言ってるのかわかってんのかな。 洲崎伊織 月に何度か閉店一時間前くらいに来て コーヒーを頼むお客さん。 何度か来るうちに会話を交わすようになり 一度名刺を貰った。 「苗字は好きでは無いので 伊織と呼んで下さい。」 そう言われたので それから伊織さんと呼んでいる。 川沿いに建つ この店の周りは都市開発が進み 沢山のビルが建っている。 なんとかって有名な建築家がデザインしたとかいう ビルに入っている会社の人らしく 多分仕事帰りなんだろう。 たまに同僚の沢木さんという人も一緒に来て。 沢木さんは甘い物が好きなのか 必ずチーズケーキも食べる。 ただ それだけ。 今日も やっぱり閉店一時間前くらいに来て。 気に入っているのか 川側の窓横の いつものボックスに座り 長い足を組んで コーヒーを飲みながら 外を眺めていて。 他にお客さんが誰も居なくなった時 伊織さんは 俺に向かって手を挙げた。 コーヒーお代わりかな。 閉店時間をわかっているのか いつも必ず 一杯で引き揚げるんだけど。 で 近づいてみたら何故か促されて座らされ 伊織さんは ポンっとテーブルに分厚い茶封筒を 置いて ニコッと微笑んだ。 「100万入っています。これで俺の恋人に なって頂けますか。」

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