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時間の無駄⑮

「そういやしばらく顔出さなかったな。 忙しかったの?」 話を変えようとそう聞きながらカップを 拓真の前に滑らせる。 ブラックしか飲まないからクリームも砂糖も無し。 うん。と頷いてカップを掴み 口をつける。 コクンとまた頷いて 「旨い。」と言ってくれた。 こーゆー所。ホントいいヤツなんだよなぁ。 それも大袈裟に褒めたりとかじゃなくて ポツリと一言。 毎日の仕事とはいえ 旨いと言われると やっぱり嬉しい。 「室長が関西に出張で その穴埋めにかなり 時間取られたからな。帰ってきて 引き継ぎ やっと終わったから 今日から通常だ。」 拓真はそう言って 灰皿に置いていた煙草を掴み 煙を吸い込んで吐き出した。 会社では喫煙所でしか吸えず 業務が忙しいからと なかなかそこにも行けないらしい。 「ふーん。その室長さんが居ないと そんなに大変なんだ。なんか管理職って 机に座ってハンコついてるだけってイメージ。」 リーマンの世界なんて全く想像がつかない。 知識はテレビドラマや漫画からくらいだ。 拓真は苦笑いを浮かべ 「随分と古臭いイメージだな。今時 そんな会社 どこにも無いぞ。まあ。とはいえ うちの室長は ちょっと別格だけどな。あの人が居ないと こんなにも大変なのかと 今回まざまざと 思い知った。」 そう言って はぁ。と深いため息をつく。 大変そうだなぁ。。 拓真はずっと営業だったらしいけど 前から今の部署に希望を出していて それがやっと叶い この間配属になった。 相当狭き門的な部署みたいで 普段冷静なコイツが 配属になった。って嬉しそうに言いにきて 缶ビールで乾杯したくらい。 どうも その室長さんをかなり尊敬していて 目標にしているみたいで いつも真っ直ぐに 決めた道を進んでいく拓真はすごいなぁと感心する。 ・・一方 俺はこんなくだらない事に巻き込まれて。 思い出し またドヨーンと気持ちが凹んだ。

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