43 / 121
ビジネス④
「そんなのいらないですよ。」
「何故だ。本当はもう終わっているのに
今 君は労働を強いられている。その労働への対価は
絶対的に要求すべきもので・・・。」
まあ。そうだけど。
「うーん。友達に飯作って食わせるのに
労働って感覚は無いですよね。
今はそれに近いかなぁ。
ああ。だからって別に手は抜きませんよ。
料理はしっかりとやりたいんで。」
ざくざくと野菜を切り始める。
その手元をじっと伊織さんは不思議そうに見つめた。
「器用なもんだな。」
変なところに感心してる。
ホントこの人ちょっと面白い。
一応これでもプロなんだけど。
暫く眺めたのち 急に思い出したのか
話を蒸し返した。
「君は俺の友達なのか。恋人という設定だが。」
煙草をぐりぐりと灰皿に押し付け不満気にそう言う。
あー。そうでしたね。
「恋人なら尚更じゃないですか。
飯作って金寄越せとか絶対に言わないでしょ。」
「そんな事は無い。何かしてあげたのだから
あれを買え、これを寄越せというのが普通だろう。」
出た。
「伊織さんってホント碌な恋愛してないよね・・。」
つい呆れた様に言ってしまうと
心外だとでも言うようにまた眉間にしわが寄る。
「だから恋愛などというものは・・・。」
「そういうものじゃないんでしたね。
すいません。そうでした。」
急いで遮ると 不満そうに鼻を鳴らされた。
ともだちにシェアしよう!