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鳩時計㉚
「全く君が考える事は理解出来ない。
何故 すぐに相談しなかった。ビジネスの為に
大事な店を失うかもしれない所だったんだぞ。」
笹目さんが運転する車の後部座席に押し込まれ
伊織さんは隣に乗り込むと 説教を開始した。
そうですよね・・。
柚は肩を落とし すいません。と謝る。
沢木さんが助手席から まあまあ。と宥めてくれた。
でも。。
だからって伊織さんが我慢して
結婚するのは嫌だった。
都市開発自体をどうこう出来るなんて
ちっぽけな喫茶店のマスターの自分に
思いつく訳が無い。
「伊織さんと俺。あまりに住む世界が違うから。
たかだか喫茶店のマスターにこんなの
わかんないし。。ただ これだけは最後まで
ちゃんとやらなきゃってそう思って・・。」
伊織さんは大きなため息をついた。
「この間もそうだが 全く君らしくない発言だな。
ビジネスにおいて君と俺は上でも下でもない。
対等なんじゃなかったのか。」
腕を組み ジロッと俺を睨みつける。
そうだけど。
「・・でも。そんな訳無いじゃないですか。
伊織さんは社長さんで。俺は・・。」
「君だって社長だろう。鳩時計という店の
オーナー。立派な社長だ。
規模の大小など取るに足りないちっぽけな事。
その大事な組織を簡単に手放そうとしたのが
問題だと言っている。それは住む世界うんぬん等
という物では無く 意識の問題で。。」
「伊織さんにはわかりませんよっ!」
カッとしてつい遮るように言い返した。
驚いたのか 伊織さんはピタッと口を閉ざす。
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