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第54話 初恋は実らない 1

小学校の頃の俺は、今とは違ってクラスの中でも身長が高くて結構目立つ存在だった。 自分で言うのもなんだけど、顔も悪くはなかったと思うし、モテていたと思う。 せっかくの高身長を使わないのはもったいない、と母に言われ、バスケでもしてみようということになり、市内の総合体育館へ通うことになった。 同じ日にチームに入ったヤツがいたな・・・。 ・・・そうだ、榛だった。 榛は学年がひとつ下で、女みたいに可愛い顔で、チビだった。 身長が高かったおかげで、俺はすぐにゲームに使って貰えるようになって・・・ 榛はいつまでも上手くなんなくて、よくひとりで練習してたっけ。 その姿が一生懸命でほっとけなくて、俺は榛の練習に付き合うようになっていた。 頼ってもらえるのが嬉しくて、懐いてくれる榛がかわいくて、ふたりで練習する時間が好きだった。 ある日、練習中に榛が足を捻挫して、俺が救護室までおんぶして行くことになって・・・・・・ 「気持ち悪い」 そうだ。 俺は言ったんだ、榛に。 背負った榛に、いきなりうなじを舐められて・・・。 本当にビックリした。榛からされたことに驚いたんじゃない。 ひとつ下の、しかも男にうなじなんか舐められて、気持ちいい、なんて思ってしまった自分にだ。 そんな風に思った自分を否定したかった。だから榛に言ってしまった。 本当に気持ち悪いのは、俺なのに。 次の練習から、俺は榛を避けるようになった。 榛の近くにいたら、ドキドキする。顔が赤くなってしまう。いくらかわいくたって、榛は男なのに。 榛に惹かれている事を知られたくない。 だから俺は、慕ってきてくれる榛を虐めるようになった。 男なんか好きじゃない。榛なんか好きじゃない。早くこんな気持ち、なくさないといけない。自分に言い聞かせた。 中学生になり、ミニバスを辞めて学校のバスケ部に入った俺は、榛の事を忘れていった。 だけど、友達が女子の話をしてても、エロ本を見てても、なんの興味も持てなかった。 そんなものより、部室で着替えているチームメイトの裸の方が、よっぽど心臓に悪かった。 中学までは、女子から何度か告白された事もあったけど、付き合うなんて考えられなかったし、好きになるなんて事は想像すらできなかった。 高校生になって自覚し始めた。俺は、男が好きなんじゃないかって。特に好きな人もいなかったけど・・・ 高2になって、入部してきた1年の中にすごく目を引くヤツがいて・・・榛だった。 カッコよくて、バスケも上手くて人懐っこい。 惹かれるのに時間はかからなかった。榛の事を目で追うようになっていた。 ・・・俺は、榛に・・・ ふと目が覚めて、昔の夢を見ていたんだと気付く。 背中に榛の体温を感じて、きゅうっと胸が痛くなった。 体の向きを変えて榛と向き合うと、まだぐっすり寝ているようだ。 ツルツルの肌に、色素の薄い髪、長い睫毛、すっと通った鼻筋、少し薄い唇。 かわいい、綺麗、カッコイイ、どれも当てはまるな。 俺は、こいつに二回も恋に落ちたって事なのか? 小学生の頃のチビでかわいい榛。 高校生になってイケメンになった榛。 どっちにしても、俺の初恋はきっと榛だ。 「おれがかけた呪いって、気持ち悪い、って一言だったんだな・・・」 その言葉が無かったら、榛がこんな変態にならずに済んだのかも・・・ 俺は、まじまじと榛の顔を見た。 「イケメンの変態・・・残念すぎるな」 「あき限定だから、俺が変態になるのは」 「起きてたのか」 「んーん、今起きた」 寝転がったまま、天井に向かって組んだ両手を上げ、伸びをする榛。 「榛、ごめんな」 「なにが?」 「いろいろと」 「なんだよ、いろいろって」 呆れたように、ははっと榛が笑う。 「ごめん、で俺が許すと思ってんの?」 「・・・思ってねー。だから、いっぱい酷いことしていーよ」 俺の言葉に驚いた榛が飛び起きる。 「あき、どうしちゃったの?やっぱ真性マゾ?」 「人聞き悪いこと言うな!」 誰がマゾだよ!

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