54 / 56
第54話 初恋は実らない 1
小学校の頃の俺は、今とは違ってクラスの中でも身長が高くて結構目立つ存在だった。
自分で言うのもなんだけど、顔も悪くはなかったと思うし、モテていたと思う。
せっかくの高身長を使わないのはもったいない、と母に言われ、バスケでもしてみようということになり、市内の総合体育館へ通うことになった。
同じ日にチームに入ったヤツがいたな・・・。
・・・そうだ、榛だった。
榛は学年がひとつ下で、女みたいに可愛い顔で、チビだった。
身長が高かったおかげで、俺はすぐにゲームに使って貰えるようになって・・・
榛はいつまでも上手くなんなくて、よくひとりで練習してたっけ。
その姿が一生懸命でほっとけなくて、俺は榛の練習に付き合うようになっていた。
頼ってもらえるのが嬉しくて、懐いてくれる榛がかわいくて、ふたりで練習する時間が好きだった。
ある日、練習中に榛が足を捻挫して、俺が救護室までおんぶして行くことになって・・・・・・
「気持ち悪い」
そうだ。
俺は言ったんだ、榛に。
背負った榛に、いきなりうなじを舐められて・・・。
本当にビックリした。榛からされたことに驚いたんじゃない。
ひとつ下の、しかも男にうなじなんか舐められて、気持ちいい、なんて思ってしまった自分にだ。
そんな風に思った自分を否定したかった。だから榛に言ってしまった。
本当に気持ち悪いのは、俺なのに。
次の練習から、俺は榛を避けるようになった。
榛の近くにいたら、ドキドキする。顔が赤くなってしまう。いくらかわいくたって、榛は男なのに。
榛に惹かれている事を知られたくない。
だから俺は、慕ってきてくれる榛を虐めるようになった。
男なんか好きじゃない。榛なんか好きじゃない。早くこんな気持ち、なくさないといけない。自分に言い聞かせた。
中学生になり、ミニバスを辞めて学校のバスケ部に入った俺は、榛の事を忘れていった。
だけど、友達が女子の話をしてても、エロ本を見てても、なんの興味も持てなかった。
そんなものより、部室で着替えているチームメイトの裸の方が、よっぽど心臓に悪かった。
中学までは、女子から何度か告白された事もあったけど、付き合うなんて考えられなかったし、好きになるなんて事は想像すらできなかった。
高校生になって自覚し始めた。俺は、男が好きなんじゃないかって。特に好きな人もいなかったけど・・・
高2になって、入部してきた1年の中にすごく目を引くヤツがいて・・・榛だった。
カッコよくて、バスケも上手くて人懐っこい。
惹かれるのに時間はかからなかった。榛の事を目で追うようになっていた。
・・・俺は、榛に・・・
ふと目が覚めて、昔の夢を見ていたんだと気付く。
背中に榛の体温を感じて、きゅうっと胸が痛くなった。
体の向きを変えて榛と向き合うと、まだぐっすり寝ているようだ。
ツルツルの肌に、色素の薄い髪、長い睫毛、すっと通った鼻筋、少し薄い唇。
かわいい、綺麗、カッコイイ、どれも当てはまるな。
俺は、こいつに二回も恋に落ちたって事なのか?
小学生の頃のチビでかわいい榛。
高校生になってイケメンになった榛。
どっちにしても、俺の初恋はきっと榛だ。
「おれがかけた呪いって、気持ち悪い、って一言だったんだな・・・」
その言葉が無かったら、榛がこんな変態にならずに済んだのかも・・・
俺は、まじまじと榛の顔を見た。
「イケメンの変態・・・残念すぎるな」
「あき限定だから、俺が変態になるのは」
「起きてたのか」
「んーん、今起きた」
寝転がったまま、天井に向かって組んだ両手を上げ、伸びをする榛。
「榛、ごめんな」
「なにが?」
「いろいろと」
「なんだよ、いろいろって」
呆れたように、ははっと榛が笑う。
「ごめん、で俺が許すと思ってんの?」
「・・・思ってねー。だから、いっぱい酷いことしていーよ」
俺の言葉に驚いた榛が飛び起きる。
「あき、どうしちゃったの?やっぱ真性マゾ?」
「人聞き悪いこと言うな!」
誰がマゾだよ!
ともだちにシェアしよう!