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最終話 初恋は実らない 3
正月の間、榛のアパートに入り浸って家を放ったらかしにしていた俺は、里帰りから戻ってきた母にこっぴどく叱られたのであった。
叱られついでに、男が好きだということが母にバレて・・・
「そうだと思った」
とあっけらかんと返事が返ってきた。
幼稚園の時から、カッコイイだとか可愛いだとか言って、俺がくっついていたのはいつも男の子だったらしい。
高校生になってもエロ本ひとつ隠していない俺に、母は薄々、というか結構確信を持ってホモなんじゃないかと気付いていたとの事。
俺は、母に軽蔑されるんじゃないかって思ったけど
「あきが自己愛性パーソナリティ障害じゃなくてよかったわ」
と笑い飛ばされてしまった。
「そんな事より、家事のひとつでも出来るようになりなさい!」
・・・だそうで。
何にしても、懐が深い母親でよかった。
三学期始業式の朝
「あきおはよ」
いつも通りの朝のお迎え。いつもと違うのは、榛がすでに起きているということ。
「起きてんならベッドから出てろよ。早く準備しろ!」
「あきの顔見て布団から出たいんだよ」
布団の隙間から出てきた榛の手が、俺のブレザーの袖をちょん、と摘む。
もうひとつ違うこと。
それは、榛の言葉が、袖を摘む指が、優しくなったこと。
でも俺はこの甘ったるい空気が苦手だ・・・。
小っ恥ずかしいし、榛の仕草にいちいちドキドキして落ち着かない。
「学校行きたくねー・・・」
「月曜日が怖い症候群かよ!早く歯磨いてこい!」
「違うよ。学校行ったらあき独り占め出来なくなんじゃん。学年も違うし。隣の席の女とあき、仲良いしさ」
・・・なにそれ。ヤキモチかよ。
「あきに手出してくるやつがいるなら、全員俺が誘惑してやる」
「え!なんでだよ!」
「あきが誰かに盗られんのが嫌だから!絶対にイヤだ~・・・」
榛はベッドに座ったまま、俺の腹にグリグリと頭を押し付けてくる。
榛以外のやつとなんて、あるわけない。
つーか、榛はモテまくってんだから、そういう心配しなくちゃいけないのは俺の方なんじゃ・・・!
2年のクラスの前まで来て、榛がぎゅうっと抱きついてきて、俺は咄嗟に榛の体を押し返す。
「ちょ、ちょっと榛!学校ではやめ・・・」
「あー、束縛王子今日もカッコイイ~」
「だよね、マジ、あたしもされた~い。樫村と付き合ってるとか絶対嘘ホモだしぃ~」
通りすがりの女子が榛を見て黄色い声を上げる。
やっぱりモテてる・・・!俺という彼氏がいながらも、モテてる!嘘ホモとか言われてっし。榛と俺じゃ釣り合わねーって分かってるけどさ・・・。
どうしよ・・・、やっぱり俺の方が心配になってくるじゃん・・・。
「よ、あき、おはよ。あいかわらずのラブラブかぁ?」
「おはよ。・・・って、いててて」
登校してきた松田に頭をぐちゃぐちゃにされて、俺は乱れた髪を手ぐしで直す。
それを見ていた榛の目が一気に鋭くなって・・・
「むぅっ!んんっ」
自分のクラスの前で榛に唇を塞がれてしまう。
「んっ!んん~っ!」
押し返そうとしても俺の頭を掴んだ榛の力が強くて、離れたと思った唇が角度を変えてさらに強く押し付けられた。
ヤバイ、見られてる・・・!みんなに・・・榛とのキスを!
「あーん、やっぱ本気なんじゃん、樫村の事~サイアク!」
「ヘコむ~!王子ホモとかまじ残念~」
・・・これは、虫除けに効果アリ、なのか・・・?
浅ましくも、そう思った俺は抵抗をやめて榛の唇を受け入れてみる。
「おい!高杉!何やってんだよこんなとこで!」
顔を真っ赤にした松田が、俺と榛を引き剥がす。
「あきも何受け入れちゃってんだよ!拒否れよ!バスケ部に変なイメージつくだろ!」
俺から引き離された榛が、ムッとした顔で松田を見る。
「俺のあきに勝手に触るからですよ。見せつけとかないと。あきは俺のだって」
榛の言葉に、顔が真っ赤になってしまう。
・・・なんだよ、めっちゃ幸せじゃん、俺。
「初恋は実らない」なんて聞いたことがある。
本当にそうなんだろうか。
かなりの遠回りをしてしまったけど、俺と榛の初恋には当てはまらなかったみたいだ。
元の平凡な自分には戻れなくなってしまったけど・・・。
HAPPY END
最後までこの拙作にお付き合いくださった皆様、心からの感謝でいっぱいです。
本当にありがとうございました!
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