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第16話【通院 7】
リビングデッドについてまた一つ見聞を広めた俺を気にも留めず、馬男木先生が自信なさげな笑みを浮かべる。
「それでは、あの……ここからは、ボクが手を引きます。看護師のところへ案内しますので。後は女性に代わってもらいます。……それで、大丈夫ですか?」
「は、はいっ!」
俺が手を繋ぐと提案した時とは全く違う鷭の反応に、何だか若干モヤッとするぞ。確かに馬男木先生は綺麗だし、男の俺でも手を繋ごうと言われたら戸惑うが……鷭め。露骨すぎだ。
顔をうっすらと赤くした鷭と繋いでいた手を、馬男木先生へ向ける。すると馬男木先生が慌てた様子で、ポケットの中からゴム手袋を取り出した。
「あ、スミマセン……今日の検査は、ボク以外の先生でもいいですか……?」
「はい。問題ありません」
「……は、はい……」
ゴム手袋をはめた馬男木先生へ頷きで返すと、ほんの少しだけ馬男木先生が瞳を伏せた……気がする。
けれどすぐに調子を取り戻したのか、馬男木先生が鷭の手を握った。
「では、あの……行きましょう、か」
「は、い……っ」
鷭よ。馬男木先生に微笑まれて照れているのは分かるが、あまり熱くなるな。馬男木先生が融ける。
露骨すぎる友人を見送った後、俺は受付を済ませて診察の順番を待った。
診察を終え、午後から職場へ向かい仕事を終わらせた俺は、定時と同時に退勤した。
腱鞘炎だった頃も通院していたからか、目的地までの道を『慣れ親しんだ』と言っても過言ではなさそうだ。
――そう。俺は今、馬男木先生に会う為病院へ向かっている。
一応補足しておくが、今日の診察に問題があったわけではない。今回は舌だって火傷させなかった。
今回の目的は、鷭のお礼だ。
そんなこんなで『いざ病院へ』……と、思って来たのはいいが。
――診察も無いのに、どうやって馬男木先生に会えばいいんだ?
今更ながら当然すぎる疑問を抱くも、とりあえず病院へ入る。が、ノープランだ。こういう時、お礼を言う為だけに先生を呼んでもらうことは可能なのだろうか? いや、迷惑だろう。
さて、どうしたものかと受付の椅子に座ってみると……一人の医者が目に入った。
――正確には、人ではないが。
「――馬男木先生っ!」
視界に入ったのは、山のような書類を抱えている馬男木先生だ。
走れるくらいには感覚の無い体に慣れた俺は、急いで馬男木先生に近寄る。
山のような書類を半分ほど奪い取ると、視界の開けた馬男木先生と目が合う。
「…………え……あ、や、ま……えっ?」
「運ぶの、お手伝いします」
「えっ、あ、いや……これは、医者の仕事で――」
「少し話したいことがありますので、これを口実にしてはいけませんか」
俺の言葉に、何故か馬男木先生は水滴を毛先から零した。
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