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第15話【通院 6】
他種族……しかも医者である馬男木先生はバンシーを見たことがあるのかないのか。もしくはシンプルに博識なのだろう。
提示された保険証で鷭をバンシーだと認識し、人目も気にせず手を繋いでいる光景をもう一度見て、俺が先程言った『お願いしたいこと』という台詞を思い出してくれたのか、馬男木先生が自分の両手を叩いた。
「あ、もしかして……習性の予防、ですか?」
「っ! そうですそうです! 分かってくれますか――と言うか、知ってましたかっ!」
「あ、は、はい……一応、医者なので……他種族の習性は、その、あの……」
手を繋いだままの鷭が、グイグイと馬男木先生へ距離を詰める。必然的に、俺も馬男木先生へ迫ってしまう。
オロオロとした様子で戸惑っている馬男木先生を見て、俺は慌てて鷭の手を引いた。
「鷭、馬男木先生を困らせるな」
「あ! この人が、麒麟の言ってた『まなき先生』か~!」
「ば、ん…………き、きり、ん……っ」
何故だか馬男木先生が更にオロオロしてしまっている。いきなり距離を縮められて、驚いたのだろうか。
鷭の腕を引いた後、俺は馬男木先生へ頭を下げた。
「馬男木先生、鷭が失礼ですみません」
「……い、いえ……」
「そんな中こんなことをお願いするのは大変恐縮なのですが、お力をお貸しいただけないでしょうか」
顔を上げても、馬男木先生と視線が合わない。何故か俯いている。
やはりいきなり距離を縮めたのが怖かったのだろう。馬男木先生は……言い方は悪いが小心者だ。オドオドしているし、きっと人見知りだろう。
それでも俺には、頼れる先生が馬男木先生しかいない。
「今日、鷭は人間ドック――いや、バンシードックか。……なのですが、こんな調子でずっと不安がっていて……。バンシーに対して何か、特別な待遇とかはありませんか?」
繋いだ手をもう一度掲げると、一瞬だけ馬男木先生が手を見たけれど……また視線を落としてしまった。
「あ、あります……けど。…………その、お二人は……どういったご関係、なのでしょうか?」
「ム……? ただの友人です」
「……ゆ、友人……ですか?」
――瞬間。
「そ、そう……そうなんですね……っ」
やっと馬男木先生が顔を上げてくれたかと思うと、その表情は笑顔だった。
なるほど。バンシー――それともリビングデッドが誰かと手を繋ぐのはなかなか稀なケースなのかもしれない。俺が知らないだけで、よくない風習なのか?
何にせよ、あの馬男木先生が困っていたんだ。きっと手を繋ぐことには、何か良くない意味合いがあるのだろう。あまりしないよう心掛けなくては。
……する相手もいないが。
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