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第14話【通院 5】
病院に着いた俺と鷭は、辺りを見回した。
「その、ま……まな先生? とかって人は、どこにいるの? どんな人?」
「馬男木先生、だ。……俺が通院すると決めている日は、大体一階の受付付近に居る。……あと、馬男木先生は人じゃない」
「他種族なんだ……っ!」
受付を終えて名前を呼ばれる順番を待っている患者が、手を繋ぎながら辺りを見回している俺達を不審そうに見ているが……それは無視。
それにしても、馬男木先生が人間じゃないと分かった途端……鷭が嬉しそうにしたな。声が弾んだ。他種族からすると、やはり人間よりは他種族の方が気楽なのか。
そんなことを考えていると、目当ての医者を見つけた。
「鷭、いたぞ」
繋いだ鷭の手を引きながら、馬男木先生へ近寄る。
馬男木先生は別の患者さんと話していたらしく、俺達には気付いていなかった。だが丁度、俺達が近寄ったタイミングで話が終わったようだ。
「……あ、山――」
顔を上げた馬男木先生が、俺を認識する。そのまま俺の隣に立つ鷭に視線を移し、ゆっくりと下方を見た。
――と同時に、物凄く悲しそうな顔を浮かべたではないか。
「――ちょ、し……え、あ……手…………えっ?」
パクパクと口を開閉させて、馬男木先生が何故か戸惑っている。丸くなった瞳から向けられる視線は俺達の繋がれた手と、俺達の顔を行き来していた。
大の大人が手を繋いでいるのは確かに珍しいとは思うが、心優しい馬男木先生すらも注視するくらい変なものだったとは。
……患者の視線で気付くべきだったか。
「これには事情がありまして。そのことで、お願いしたいことが」
「お、お願い……? それは、その……仲を取り持つとか、そういう……?」
「ム……ある意味では、そうなるのか……?」
「待って、麒麟、待って。私から言う。麒麟は黙ってて」
何故か鷭が食い気味に割って入ってきた。
随分と余裕そうに見えるが、案外手を引かなくたって大丈夫なんじゃないか? という疑問は当然あったが、鷭に『黙ってて』と言われたので黙っておこう。
手を繋いだまま、鷭が俺と馬男木先生の間に入る。
「初めまして。いきなりでスミマセン……私、バンシーなんですけど」
「バン、シー……? ……ぁ、あぁ、バンシー……ですか?」
「はい。あ、証拠です」
まだ戸惑っている馬男木先生に、鷭が慣れた手付きで保険証を提示した。他種族は自分が他種族だと証明するのに、こうやって保険証とかを見せるのだろう。
そしてそれはきっと、日常茶飯事。他種族が少なくないとはいえ、この街の人口割合は人間の方が多いのだから。
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