23 / 48

第23話【予想外 1】

 馬男木先生がついているから、何か不調を起こしたらフォローしてくれるだろう。そんな甘えに似た気持ちが、俺にはあった。  元々そこまでアルコール好きというわけではなかったけれど、病院外で馬男木先生と会えるのが何だか新鮮で……少しだけはしゃいでいたのが本音。  だから今日の酒は今までで一番美味いんじゃないか……そんな期待を持って、俺は一口だけ飲んだ。  ――が、予想外なことに……俺はそれ以上酒を、飲めなかった。 「あぁぁうぅ……っ」  ――目の前に座っていた馬男木先生が、たった一口で倒れたからだ。 「ま、馬男木先生ッ!」  突然フラフラと体を前後左右に揺らしたかと思うと、馬男木先生はよく分からない奇声をあげ……バタリと後ろへ倒れる。  まだ、乾杯をして一口目だぞ? いったい、何が起きたんだ?  全く現状を理解できないまま、ひとまず倒れた馬男木先生に近寄る。 「あぁ~……視界が、グルグルと回って……体が、ふわふわってします~……」 「ム……? 分かり易く、言うと?」 「酔いました~っ!」  ――何となくそんな気はしていたが、やはりか!  何度でも言うが、たった一口だぞ? それはもう遠慮がちに飲んだほんの少し。それなのに酔った、だと……? 馬男木先生は酒好きじゃなかったのか?  戸惑いは隠しきれないが、放っておくわけにはいかない。立ち上がって水道水をコップに注ぎ、急いで馬男木先生の許へ戻る。 「馬男木先生、馬男木先生。まずは水を飲みましょう」  が、馬男木先生はゆるゆると首を横に振った。 「水はぁ……飲めませんっ!」 「そ、そんなに気分が悪いのですか……ッ」 「そうでは、なくて~……ひっく。体質的にと、申しますかぁ……っ?」  ……『体質的』に水が飲めない? どういうことだ?  仰向けに寝転がった馬男木先生は、隣に座っている俺を見上げながら人差し指を立てた。そしてそのまま指でクルクルと円を描く。たぶん、この行為に意味は無いと思うがとりあえず眺める。 「ボクの体は雪でできていますので~、水に触れたり飲んだりすると~? なんと! 溶けちゃうんですよ~っ! しかもしかも、す~ぐアルコールを吸収しちゃうんですよね~っ、あはっ!」  何だか、いつもとだいぶ様子が違う。酔うとちょっと饒舌になるらしい。そして、笑い上戸でもあるようだ。  しかしなるほど、そういう意味か。だったら水は飲ませられ――ん? 「――ならどうして、飲みの誘いなんて……?」  水が駄目なら、酒も駄目に決まっているだろう。そんなこと、馬男木先生だって分かっている筈だ。  当然の疑問に対し、朗らかに笑った馬男木先生が答える。 「だって……一緒に、飲みたかったんですもん」  なるほど、理解したぞ。  つまり馬男木先生は……物凄く酒に弱い酒好き、ということか。

ともだちにシェアしよう!