22 / 48
第22話【招待 4】
男の一人暮らし……イメージするのは絶賛一人暮らし中である自分の部屋だ。
休みの日だけ掃除をしているが、掃除と言っても洗濯やゴミの片付けのみ。そこそこ散らかった部屋だから、男の一人暮らしと言われたらちょっと乱雑なイメージだった。
――が、やはり馬男木先生は違う。
「えっと……な、何か気になり……ます、か?」
決して広くはない間取りと、シンプルすぎる家具。それは職員寮だから当然だろう。おそらく家具は、初めから用意されている物。
だが、何故だろう……品が違う。気がする。他の部屋を見ていないから何とも言えないが、少なくとも俺の部屋とは全く違う。
「綺麗ですね」
「あ、え……っ?」
「部屋。片付いていて」
「あ、あぁ……へ、部屋。あ、ありがとう、ございます……」
不躾とは分かっていながら思わず部屋を見渡しながらそう呟くと、馬男木先生がぎこちない動きをしながらテーブルの上に食べ物を並べ始めていた。慌てて、俺もレジ袋の中から買った物を出す。
そこで俺は一度、手を止めた。
「馬男木先生、スーツのままだと窮屈じゃないですか」
俺は時間に余裕があったから着替えてきたが、馬男木先生はスーツのままだ。一応、白衣だけは病院に置いてきたらしい。
ドラマとかのイメージだと、医者や看護師は病院でスーツに着替えていると思うのだが……馬男木先生は違うのだろうか。
という疑問に気付いたのかどうなのか……馬男木先生がもごもごと口を動かす。
「えっと、その……ボク、普段は人の形をしていなくて……あの……っ」
「ム……家では雪だるま、ということですか」
「雪だるま、ではないのですが……えっと、そんな感じです」
なるほどなるほど、理解した。
おそらく馬男木先生は普段着というものを持っていないのだろう。服はオーダーメイドで作れるが、超インドアなのか……スーツしか用意していない、といったところか。
何故か気まずそうに視線を泳がせながら、馬男木先生がコップを用意する。
「気になり、ますか?」
「馬男木先生が気にしないなら、大丈夫です」
……ただ、偏見があっただけだ。
「端整な顔立ちですので、てっきりファッションに興味があるのかと」
「……っ」
ム、どうしたのだろうか。馬男木先生の手が震えている。まさか、寒い……なんてことはないか。
馬男木先生はよく不調を起こすが、そこは医者として大丈夫なのか……患者である俺が心配するのも変だが、馬男木先生は何か持病を持っていそうだな。
という心配事は追々訊くとして、今は酒を楽しもう。気持ちを切り替えた俺は、用意された二つのコップに買ってきたばかりの酒を注いだ。
ともだちにシェアしよう!