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第22話【招待 4】

 男の一人暮らし……イメージするのは絶賛一人暮らし中である自分の部屋だ。  休みの日だけ掃除をしているが、掃除と言っても洗濯やゴミの片付けのみ。そこそこ散らかった部屋だから、男の一人暮らしと言われたらちょっと乱雑なイメージだった。  ――が、やはり馬男木先生は違う。 「えっと……な、何か気になり……ます、か?」  決して広くはない間取りと、シンプルすぎる家具。それは職員寮だから当然だろう。おそらく家具は、初めから用意されている物。  だが、何故だろう……品が違う。気がする。他の部屋を見ていないから何とも言えないが、少なくとも俺の部屋とは全く違う。 「綺麗ですね」 「あ、え……っ?」 「部屋。片付いていて」 「あ、あぁ……へ、部屋。あ、ありがとう、ございます……」  不躾とは分かっていながら思わず部屋を見渡しながらそう呟くと、馬男木先生がぎこちない動きをしながらテーブルの上に食べ物を並べ始めていた。慌てて、俺もレジ袋の中から買った物を出す。  そこで俺は一度、手を止めた。 「馬男木先生、スーツのままだと窮屈じゃないですか」  俺は時間に余裕があったから着替えてきたが、馬男木先生はスーツのままだ。一応、白衣だけは病院に置いてきたらしい。  ドラマとかのイメージだと、医者や看護師は病院でスーツに着替えていると思うのだが……馬男木先生は違うのだろうか。  という疑問に気付いたのかどうなのか……馬男木先生がもごもごと口を動かす。 「えっと、その……ボク、普段は人の形をしていなくて……あの……っ」 「ム……家では雪だるま、ということですか」 「雪だるま、ではないのですが……えっと、そんな感じです」  なるほどなるほど、理解した。  おそらく馬男木先生は普段着というものを持っていないのだろう。服はオーダーメイドで作れるが、超インドアなのか……スーツしか用意していない、といったところか。  何故か気まずそうに視線を泳がせながら、馬男木先生がコップを用意する。 「気になり、ますか?」 「馬男木先生が気にしないなら、大丈夫です」  ……ただ、偏見があっただけだ。 「端整な顔立ちですので、てっきりファッションに興味があるのかと」 「……っ」  ム、どうしたのだろうか。馬男木先生の手が震えている。まさか、寒い……なんてことはないか。  馬男木先生はよく不調を起こすが、そこは医者として大丈夫なのか……患者である俺が心配するのも変だが、馬男木先生は何か持病を持っていそうだな。  という心配事は追々訊くとして、今は酒を楽しもう。気持ちを切り替えた俺は、用意された二つのコップに買ってきたばかりの酒を注いだ。

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