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第25話【予想外 3】
人付き合いに口を出せるような関係性ではないが……こんなに無防備な姿を他の誰かにも晒して、こうやって甘えているのかと思うと……何故か複雑だ。理由は分からないが、物凄く。
そんな俺のモヤモヤを全く知らない馬男木先生が、俺の手に頬をすり寄せたまま、俺を見上げた。
「……麒麟さん?」
大きな赤い瞳が、不思議そうに丸くなっている。【キョトンとした表情】というものを、体現しているようだ。
そっと頬を撫でると、馬男木先生が驚いたように瞬きをした。が、すぐさま嬉しそうにはにかむ。
「あはっ。何だか、ドキドキしちゃいますね」
「そ、う……です、か」
「こうやって、触れることも触れられることも……滅多に、ありませんから」
つまり、あまり酔ったところを他人に見せていない……ということだろうか。それなら安心だ。理由は分からないが、物凄く。
もう少しこうしていてもいいかと思う気持ちはあるけれど、できることなら介抱したい。俺は馬男木先生の頬を撫でながら、顔を寄せた。
――瞬間、馬男木先生の顔が酔い以外の何かで赤らんだ。
「え……っ。き、麒麟、さん……っ? あ、あの――」
「馬男――雪豹さん、の……酔いを醒ましたいのですが。方法を教えていただけますか」
逃がさないよう、嘘を吐かせないように至近距離で見つめる。素面の時と同じく泳いでいた視線が、俺の言葉でピタリと止まった。
赤くなったかと思ったら、今度はムッとした表情を浮かべた馬男木先生だったが……すぐに、ニヤリと口角を上げたではないか。……全く考えが分からない。
「知りたいですか~?」
「はい」
「だったら、キスしてください~っ」
「ム……ッ?」
――饒舌になって笑い上戸で……しかも、キス魔ときたか。
予想外のオンパレードに言葉を失いかけたが、何とか落ち着きを取り戻す。馬男木先生の表情を見るに、依然ニヤニヤと笑っている。
これはつまり、からかって楽しんでいるということ。狼狽えさせるのが目的だろう。
だから俺は狼狽したのを隠す為、わざと馬男木先生と同じように笑ってみせる。
「酔いが醒めても同じことを言えたら、してあげます」
「……ほんとぉですか?」
「はい」
――まぁ、素面の馬男木先生なら『キスして』なんて言わないだろう。
若干不満そうな顔をしている馬男木先生だけれど、交渉に応じてくれる気になったらしく……ボソボソと、酔いを醒ます方法を教えてくれた。
俺はそれを実行すべく、馬男木先生の頬から手を離す。
そしてそのまま、冷凍庫に向かって歩き出した。
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