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第26話【予想外 4】
雪でできた雪男、並びに雪女はアルコールを瞬時に吸収してしまうせいで酷く酔いやすい体質らしい。
回ってしまった酔いを醒ます方法は至って簡単。体に【アルコールを吸っていない雪】を吸収させるだけ。
「馬男木先生、持ってきましたよ」
冷凍庫の中にあると言われた雪を手に持ち、俺は横になっている馬男木先生へ近寄る。そしてそのまま雪を掴み、馬男木先生の額に押し付けてみた。
すると馬男木先生が、ふにゃりと表情を和らげる。
「ひやぁ~……気持ちいいですねぇ……っ」
「もっと足しますね」
「はい……はぁ~っ」
押し付けた雪が、どんどん吸収されていく。嬉しそうな表情を見るに、どうやら効果は絶大のようだ。どんな感覚なのか、若干気になる。
何となくで頭に押し付けているが、これは正解なのだろうか。嬉しそうだから間違いではないだろうが。
「麒麟さん、他のところも……お願いして、いいですか?」
とか思っていたら、見透かしたかのようなタイミングでオーダーがきた。
断る理由が全く無いので、俺は素早く頷く。
「勿論です。どこでしょうか」
「じゃあ……」
――それは、突然の出来事だった。
「――ココ」
思わず俺は、絶句する。
何故なら……馬男木先生が突然。
――ネクタイを緩めて、胸元のボタンを外し始めたからだ。
「ま、なき……先生。それは、些かやりすぎなのではないでしょうか」
「でも、ココ……熱いんです」
これは、この行為は……雪男にとっては、当然なのだろうか。雪男の知り合いが馬男木先生しかいないから、全く分からないぞ。
酔っているから、悪ふざけで言っているのか。それとも、本気。判断がつかない。
――が、迷っている場合ではない。
目的は介抱だ。馬男木先生がふざけていたのだとしても、吸収できるのには変わりない。つまり、嘘ではないということ。
「失礼します」
だから俺は素直に、馬男木先生の胸元へ雪を――。
「ん……っ」
――押し付けた瞬間、馬男木先生が吐息を漏らした。
急いで手を引くと、馬男木先生が潤んだ瞳で俺を見上げる。
「麒麟さん……っ?」
「す、すみません……続けます」
これは、介抱だ。邪な気持ちは何もない。
だから馬男木先生の白い肌や、薄い胸板……並びに、雪を押し付ける度に聞こえるどこか甘くて鼻にかかるような吐息や跳ねる体に対して……何かを思うのは失礼だ。
「は、あ……っ。くすぐったい、です……んっ」
「すみ、ません……ッ」
――ましてや、性的に見えるだなんて……絶対に、あってはならない。
同性に対して何故か悶々とした気持ちで特殊な介抱を続けていると、突然……馬男木先生が、眠ってしまった。
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