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第28話【翌日 2】

 社会で誰が作ったわけでもないのに存在する【暗黙の了解】……それは本当に厄介だ。  例えば【飲み会で酒を飲まない奴は空気が読めない】といったルール。別に無理して飲むものでもないのに、皆が何となく持っている。  そしてそれは人間だけでなく他種族間にも定着しているらしい。馬男木先生は真面目だから、そんな【暗黙の了解】を気にしてしまったのだろう。 「お誘いしたのは、ボクですから……貴方に、不快な思いをさせたくなくて……っ。あ、い、言い訳ではなくて……っ!」 「分かっています」  色々と、馬男木先生なりに考えてくれた。それは、決して嫌じゃない。  だけど……何事も加減や限度があるだろう。 「お気持ちは、十分に分かりました。だけど、次からは無理しないでください。……気を遣われると、少し……悲しいです」 「あ……えっ?」  頭を下げていた馬男木先生が突然、顔を上げた。  ――何故かその顔は……赤い。 「い、今……つ、次って……」  しまった。言葉の綾でつい。  しかし、無理をしないでくれるのなら……馬男木先生とはまた、こうした時間を取りたいと思っているのも本心。けれど、この反応を見るに……馬男木先生はあまり乗り気じゃないのだろうか。 「ム……もしかして、嫌でしたか……」  不安からそう訊ねると、馬男木先生は真っ赤な顔をしたまま両手を横にブンブンと振り始める。 「い、いえ! あの、う、嬉しいですっ! ご迷惑じゃなければ、是非……っ!」 「でしたら、また今度。……次は、無理をしないと約束してくれますか」 「勿論、です……っ!」  依然変わらず眉尻が下がっているけれど、表情はどこか明るい。泣きそうな目も相変わらずだが、口角は上がっている。  こう見ると……馬男木先生はやはり、可愛い。 『ん……っ』  ――昨日の妖艶さが、嘘のように。 「馬男木先生」 「は、はいっ!」  ペタリと床に座ったまま、馬男木先生が俺を見つめる。どうして名前を呼ばれたのか分からないからか、その顔はまた、不安そうなものに戻っていた。 「フルネームは少々くすぐったいので、できればどちらかで呼んでもらいたいのですが……」  『昨日のように』と付け加えたいが、別に苗字だっていいのだから割愛。  すると馬男木先生が、青ざめていた顔をまた、赤くする。 「え、あ……っ。な、まえ……名前……き、麒麟、さん?」 「どち――あ、あぁ、はい」 「……麒麟、さん。ボクのことも、あの……先生、抜きで……っ」 「分かりました。……馬男――雪豹、さん」  苗字で呼ぼうとしたら、この世の終わりみたいな目を向けられてしまった。時々、本当に理解できない行動をする。  結局、今回の飲み会ではアルコール摂取について学ぶことはできなかった。  しかし、馬男木先生――もとい、雪豹さんとの距離は縮まった気がするので……意味の無い飲み会ではなかった……と、思う。

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