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第46話【告白 1】

 顔を合わせる勇気が出なくて、固く目を閉じる。  ――だから俺は、すぐに気付けなかった。 「麒麟さん。顔を、上げてください」  声が聞こえたから、恐る恐る目を開ける。  ――そうして、やっと気付いた。  ――いつの間にか……雪豹さんがその白い手で、俺の手を握っていたのだと。 「麒麟さんはこれからも――今まで以上にもっと、他種族として扱われることになると思います。これは、ボクにはどうしようもできないです。ごめんなさい」 「そんなこと――」 「でも、ボクは絶対に貴方を差別しない。ボクにとって貴方は、貴方です。人間だとか他種族だとか……そんなこと一切関係ありません」  どのくらいの力で、俺の手を握ってくれているのかは……分からない。それが凄く、悲しい気がする。  だけどどうしてか……それ以上に心強い気もするから、不思議でたまらない。 「ボクは、貴方が好きです。人間だったからとか、他種族に変わったからとかじゃなく……あの日、病院で声を掛けてくれたあの時から……その。ずっと、ずっと……通院している貴方を見て、慕っていました」  同僚の言っていた『夢に出てくるのは相手が自分を想ってるから』という言葉を、今思い出さなくたっていいだろう。  頭の片隅でどこか冷静な自分がいて、煩わしい。 「あ、で、でも。その、気持ち悪い……ですよね、ごめんなさい。あの、その……言うつもりは、なかったんですけど……えっと。スミ、マセン……っ」  ハッキリとした口調が、いつもの自信なさげな小さいものに変わっていく。それを聴いていると『この告白は、間違いなく雪豹さんからのものなんだ』と、実感する。  だから俺も、真摯に……俺らしく、対応したい。 「リビングデッドになって、目が覚めたあの日……俺は雪豹先生を見て、本当に、とても。……安心、しました」  小さく震えている手を、握り返す。そうすると雪豹さんが息を呑んだものだから、思わず笑ってしまいそうになった。  雪豹さんはいつも、分かり易すぎるくらい分かり易い反応をしていたじゃないか。気持ちを知った今、過去のやり取りを思い出すと……やはり笑いが込み上げてくる。  口角を上げたまま、不安そうに俺を見上げる雪豹さんを見つめた。 「貴方は……化け物なんかじゃ、ない。俺にとって貴方は……素敵な、大切な存在です」  こんなことを言う資格、俺にはないかもしれない。  どこかで冷静な自分が……またも脳裏で思い起こす。 『夢に見るほど想ってる~ってやつ!』  ――それなら、随分とロマンチックだな。 「――俺も、雪豹さんが好きです」  リビングデッドになった俺の心臓は、もう自分では動かせないけれど。  ――今だけは、早鐘を打った気になってもいいだろうか。

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