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第45話【雨 4】

 雪豹さんの腕を掴んで、水の吸収を止めさせる。  当然、雪豹さんは抵抗してきた。腕を引き、何とか放してもらおうとしているのだろう。  だけど俺は、それをしたくない。 「雪豹さん。アパートに、戻りましょう」 「ど、うして……っ?」 「冷凍庫の中に、雪が入ってます。冷蔵庫にも、あります。俺はタオルで体を拭くから、雪豹さんは雪を吸収してください」  持っていた傘を手渡し、腕を引く。  けれど、雪豹さんは当惑していた。それもそうだろう。追い出された筈なのに、今度は戻ってこいと言われているのだから。 「傘、差してください」 「でも、麒麟さんが……」 「そんなにすぐ腐りませんよ。ちゃんとドライヤーもします」  俺の体よりも、雪豹さんの方が危ない。  ロマンチックに相合傘でもしたらいいのかもしれないが、雪豹さんをほんの少しも濡らしたくないのだ。  困惑している雪豹さんに半ば無理矢理傘を差させると、俺達はアパートに戻る為歩き出した。  アパートに戻った俺はまず、雪豹さんの体を心配した。 「雪豹さん。服の中、濡れていませんか」 「す、少し……あ、あの――」 「何の加工もされていない服しかありませんが、今は我慢してください。俺のを貸します」 「あのっ!」  急いで服を用意し始める。すると、そんな俺を雪豹さんが戸惑った様子で見上げた。 「ボクのこと……怒ってたんじゃ、ないん……ですか?」  不安そうな瞳で俺を見上げながら、雪豹さんが震える声でそう言う。  適当な服を引っ張り出して、雪豹さんへ手渡す。 「着替えてください」 「麒麟さん。ボクの質問に――」 「さっきのは、全て八つ当たりです。雪豹さんには、何の非もありません」  押し付けるようにして服を手渡すと、勢いに押された雪豹さんが受け取ってくれた。  それでも赤い瞳が震えながら俺を見上げてくるから、俺も視線を返した。  ――そして、深々と頭を下げる。 「本当に、申し訳ございませんでした」 「き、麒麟さんっ?」  頭上から、慌てたような雪豹さんの声がした。  だけど俺は、決して頭を上げない。 「心にもないことを言って、貴方を傷付けてしまった。気が立っていたなんて、言い訳にしかなりません。本当に、本当に。申し訳ございませんでした」  自分がいかに最低なことをしたか、分かっているつもりだ。どれだけ傷付けたのかも、どれだけ……悲しませたのかも。  ――それでも雪豹さんは、俺の味方でいてくれた。  ――俺を、守ろうとしてくれたのだ。  決して許されないとは分かっていながら、それでも俺は頭を下げ続けた。

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