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愛人と本妻(24)
十二月二十四日。
浮かれ騒ぐ街を後にして町へと戻る。
日のあるうちに帰途につける土曜とはいえ、一年で最も暗い時季だ。駅を降りるともう薄暗かった。
辻との“変な感じ”は週末になっても続いていた。
初日が上手く行ったからか、二日、三日経っても辻と竜一が実和子グループに混ざり込んでいることに言及する者もなかった。
言うなれば『偽装仲良し』をするためのグループ行動ではあった。
これが案外と嫌いじゃない。
やることなすこと照れくさくて、時々嫌みを言い合ったりもし、同調しては笑い、我にかえって口を閉じる。その口もしばらくすると閉じていられなくなる。
熱情もなく、憎しみもなく、奇妙に安定している。
竜一は、四月から一本早い汽車に乗らなければならなくなる。
朝にも課外授業が行われるようになるからだ。
四月になればまた生活が変わる。
辻とは会わないでおこうと思えば会わずにいられる環境になる。竜一はそれを言おうか言うまいか迷っていた。
言えば「そうか」で終わりそうな気がする。
言わずにいてもそれで終わり。
結末はどちらも同じだ。
頭の中の回廊をくるくる巡りながらだらだらと坂を下る。
灰色の厚い雲の下に灰色の海が見える。夕日の射さない町並みまで灰色だ。人間どころか生き物がいるのかさえ疑わしいほど何の気配もない。白黒写真の中に入り込んでしまったかのような静けさだった。
気づくと神社の石段の下まできていた。ふと石段を登りそうになって、神楽の練習は今年は先週までだったことを思い出した。
一人苦笑をもらして、踵を返すその視界にちらりと色彩を感じた。
赤い残像が鳥居をくぐって消えた。
残像は人の形をしていた。
「……坂口……?」
確信はなかったが、記憶に残る色だった。辻の通う、坂口が通っていた学校ジャージの色だ。
衝動的に竜一は石段を駆け上がった。今見逃してしまうと、何か大変なことが起きるような予感がした。
日が落ちる。境内に闇が降りてくる。街灯は壊れてしまったのか点いていなかった。
曲がりくねった木々の影が闇に乗じて神社の大屋根に襲いかかる。
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