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第1話

 煙草を銜えて、ぼんやりと。  俺は金髪を揺らしながら、僅かに開けた窓の外を眺めていた。  外には雪が舞い散っている。煙が外に出ていく。見ているだけで寒くて、俺の黒い猫耳が震えた。猫獣人、それが俺、スカイ・オリーブである。  ここは冒険者が集う小さな街――メルクマール。  その一角に店を構えているのが、ここ『苔庭のイタチ亭』だ。  テオさんという気の良い(?)マスターが開いたお店で、冒険者の社交場にもなっている。イタチの耳が揺れる、温厚そうな主人なのだが、俺は知っている。怒ると怖い。  しかしながら、テオさんの料理は非常に美味だ。これで『料理は趣味』と口にするのだから末恐ろしい――最初から美味しかったが食べる度に美味に感じるから、どこまで進化する事やら。好きな事を仕事にして店を開けるって格好良いと俺は思う。時折客の冒険者達の話に耳を傾けている姿を見ると、俺と違って接客にも熱心なんだなぁと感じる。  そんなテオさんは、現在料理の仕込み中だ。  隣には、ウィルが立っている。ウィル・アシュレイだ。基本的にコイツはクールで無表情なのだが、現在は口元を押さえている。顔を隠してこそいるが、笑っているのが分かる。案外、笑い上戸なのではないかと俺は時々疑う。綺麗な色彩の兎耳が揺れている。俺より二歳年下の二十一歳なのだが、俺より身長が1cm高い。正直そこが羨ましい。  テオさんとウィルは、何かと冒険者の話で盛り上がっている事がある(と、同時に何故かダジャレを口にしている事もあるが、謎だ)。多分ウィルは元々冒険者だったのだろう。詳しくは知らない。テオさんは――なんだろうな、店の客の話を聞いているから詳しいのか何なのか……やはり俺から見ると、様々な事を知っているように思う。  そんな事を考えてから、俺は視線を窓の外に戻した。するとカゴを持って、買い出しに行っていたピノが戻ってきた。ノエリオ・ピノは、垂れた耳をしているが、本人曰く、『耳まで含めれば身長は170cm!』らしい。まぁ良い。俺の方が高いのは確実だ。俺だって猫耳を入れたならば、176cmくらいを名乗っても良いだろう(さすがにそれは無理か)。 「寒かったあ」  戻ってきたピノが扉を開けた。俺は煙草を消して、そちらに歩み寄った。 「おかえり」 「ただいま。またサボり? 良くないんだぞ」 「煩い」  冗談めかしつつも小馬鹿にしたようなピノの口調に、俺は目を細めた。俺より三つ年下の、二十歳のくせに、大人である俺を時々コイツは馬鹿にする。だが本気でないと分かる、愛すべきドジだ。 「虹灯芋は買ってきたのか?」  俺はカゴの中身を台の上に出すのを手伝いながら尋ねた。 「あ」 「あ、って何だよ?」 「……今からもう一回、買いに行ってくるんだぞ」 「買い忘れか? 本当、ドジだな。身長だけじゃなく頭の中身も小さそう」 「は!?」  俺の揶揄にピノが頬を膨らませた。

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