1 / 3
第1話
煙草を銜えて、ぼんやりと。
俺は金髪を揺らしながら、僅かに開けた窓の外を眺めていた。
外には雪が舞い散っている。煙が外に出ていく。見ているだけで寒くて、俺の黒い猫耳が震えた。猫獣人、それが俺、スカイ・オリーブである。
ここは冒険者が集う小さな街――メルクマール。
その一角に店を構えているのが、ここ『苔庭のイタチ亭』だ。
テオさんという気の良い(?)マスターが開いたお店で、冒険者の社交場にもなっている。イタチの耳が揺れる、温厚そうな主人なのだが、俺は知っている。怒ると怖い。
しかしながら、テオさんの料理は非常に美味だ。これで『料理は趣味』と口にするのだから末恐ろしい――最初から美味しかったが食べる度に美味に感じるから、どこまで進化する事やら。好きな事を仕事にして店を開けるって格好良いと俺は思う。時折客の冒険者達の話に耳を傾けている姿を見ると、俺と違って接客にも熱心なんだなぁと感じる。
そんなテオさんは、現在料理の仕込み中だ。
隣には、ウィルが立っている。ウィル・アシュレイだ。基本的にコイツはクールで無表情なのだが、現在は口元を押さえている。顔を隠してこそいるが、笑っているのが分かる。案外、笑い上戸なのではないかと俺は時々疑う。綺麗な色彩の兎耳が揺れている。俺より二歳年下の二十一歳なのだが、俺より身長が1cm高い。正直そこが羨ましい。
テオさんとウィルは、何かと冒険者の話で盛り上がっている事がある(と、同時に何故かダジャレを口にしている事もあるが、謎だ)。多分ウィルは元々冒険者だったのだろう。詳しくは知らない。テオさんは――なんだろうな、店の客の話を聞いているから詳しいのか何なのか……やはり俺から見ると、様々な事を知っているように思う。
そんな事を考えてから、俺は視線を窓の外に戻した。するとカゴを持って、買い出しに行っていたピノが戻ってきた。ノエリオ・ピノは、垂れた耳をしているが、本人曰く、『耳まで含めれば身長は170cm!』らしい。まぁ良い。俺の方が高いのは確実だ。俺だって猫耳を入れたならば、176cmくらいを名乗っても良いだろう(さすがにそれは無理か)。
「寒かったあ」
戻ってきたピノが扉を開けた。俺は煙草を消して、そちらに歩み寄った。
「おかえり」
「ただいま。またサボり? 良くないんだぞ」
「煩い」
冗談めかしつつも小馬鹿にしたようなピノの口調に、俺は目を細めた。俺より三つ年下の、二十歳のくせに、大人である俺を時々コイツは馬鹿にする。だが本気でないと分かる、愛すべきドジだ。
「虹灯芋は買ってきたのか?」
俺はカゴの中身を台の上に出すのを手伝いながら尋ねた。
「あ」
「あ、って何だよ?」
「……今からもう一回、買いに行ってくるんだぞ」
「買い忘れか? 本当、ドジだな。身長だけじゃなく頭の中身も小さそう」
「は!?」
俺の揶揄にピノが頬を膨らませた。
ともだちにシェアしよう!