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第1話

 こんなにも雪が積もったのは、あいつが亡くなった5年前の2月以来だ。  あの時は確か10年に1度の強い寒波が押し寄せているとのことで、観測開始以来最も積雪が多くなっていると連日話題になっていた。しかし今回はそれをも遥かに超える大寒波だと言う。  俺とあいつと雪弥(ゆきや)は当時高校生で、積もった雪のせいで今日のように交通機関が麻痺し、急遽休校になった。無性に嬉しくなったのは今でも覚えている。購入したばかりの当時人気だったRPGゲームを夢中で部屋に篭ってやっていたから。 「大丈夫か?」 「うん、大丈夫。誰もいないね」  俺は歩道に積もった雪を長靴で踏みつけながら傘を左手に持ち替えて、恋人の雪弥の手をしっかりと握った。  普段から人は少ない街だけど、さらに拍車がかかったようだ。  まだ午後2時だっていうのに夜みたいに薄暗い。チラチラと空から舞い降りてくる雪がこの小さな街を銀世界に変える。それはとても非日常的で、異世界にでも入り込んでしまったかのようだった。  横断歩道橋の前にたどり着いた俺たちは、傘を閉じてダウンジャケットに染み付いた水滴を手で払った。  前日から雪弥の家に泊まらせてもらっていたので30分足らずでここに着いたのだが、手袋をしていなかった俺の手は悴んでいた。  雪弥は持っていたビニール袋の中から白い花の束を取り出し、しゃがんで階下にそっと置いた。 「5年か。あっという間だったね」 「あぁ」  俺たちは目を閉じて手を合わせ、あいつに思いを馳せる。  今でも忘れない、あいつの屈託のない笑顔、片足を引き摺る仕草。けれど障害をものともしない強い精神力。俺はあいつが大好きだった。  あいつは、この歩道橋の階段から足を滑らせて、運悪く硬い石に頭を打ちつけてしまい亡くなった。  俺の心の傷は、すぐには塞がらなかった。しかし1年、3年と月日が流れれば痛みは無くなって、あいつを思い出して声を上げて泣くことも少なくなっていった。  そして今日、あいつの命日と同じように雪が積もっている。  俺はふと歩道橋を見上げた。 「上、行ってみないか?」 「え?」  雪弥は少し困惑の色を見せたが、俺は構わず階段を上り始めた。  スロープがついているタイプのもので、そこが凍り始めていてアイスバーン状態になっている。よほど注意して上り下りしないと危険だというのは見て取れた。  雪弥も俺に続いて階段を上ってくる。  歩道橋の上からあたりを見下ろすと、小学校や病院、そしてドラックストアーなどが見えた。そこの店員らしき人物が、駐車場に積もった雪をスコップで一生懸命にかき分けていた。雪の影響で営業時間を遅らせる店舗がほとんどだが、そろそろ開始するようだ。 「英太(えいた)、何考えてるの?」  雪弥は俺の顔を隣から覗き込む。  俺は白い息を吐き出しながら、その店員の動きをじっと目で追った。 「どうして……」  雪弥も俺が何に視線を向けているのか気付いたらしく、同じ方向を向いた。俺はそのまま、低い声で続けた。 「――どうしてあいつは、こんな雪の日にこんなところまで来たんだろう」

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