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最終話【終わりに近い未来の始まり 五】(了)

 どうして自分に能力を授けたのか、どうしてあの時自分を見つけたのか、そもそもどうして自分だったのか……その理由を、ステラはずっと考えていた。そして、一つの答えに辿り着いたのだ。  ――その答えを知っているのは、精霊本人だけだ……と。 「スノース国の繁栄に力を貸してくれる御仁であれば……私はもう一度、精霊様と話してみたい」  真っ直ぐに自分を見つめ返すステラに対し、シンは笑う。 「オイオイ……決死の告白だってのに、オレ以外の名前出すかよ、フツー」 「お嫌でしたか?」 「……ったく」  ぼやいたシンの顔が、ゆっくりとステラに近付く。 「――そんなツレないところも、大好きなんだよな」  深紅の瞳を閉じたシンに倣い、ステラも薄桃色の瞳を閉じた。  ゆっくりと影が近付き……重なる。  ――前に、二人以外の声が響いた。 「こぉらーッ、シンーッ! いつまでボクを放置してるつもりだーッ!」  瞬時に、シンがステラから手を放す。それとほぼ同じくして、二人は互いから距離を取った。 「……シン? この、声は……?」 「あ~……魔族に長けた仲間の、声」  盗聴器を正当化してくれた国民のことだ。あの時、あのタイミングで声を発したのはさすがに『ツいていた』というわけではなく、仕込んでいたのだろう。  なるほどと呟くこともできず、二人はシンの仲間が放つ大声に耳を澄ませた。 「王様に悪事を密告したし、宰相とか言う男は独房にぶち込んだぞ! もうこの屋敷に用事はないだろーがッ! サッサと旅に戻るぞーッ!」  仲間の声を聴いて、シンは乱暴に自身の頭を掻き始める。 「イいとこだってのに……」 「……ふ、あはっ」  声を出して笑うステラを、シンが不思議そうに見下ろす。肩を揺らして笑いながら、ステラは挑発するように呟いた。 「さすがに、ツいていなかったみたいですね?」  楽し気に笑うステラを見て、シンも破顔する。  そしてそのまま、笑みを浮かべるステラへシンが手を伸ばした。 「参りましょうか。……オレの、王子サマ」  伸ばされた手へ、ステラも同様に手を伸ばす。 「――喜んで」  この先、何が待っているのかは分からない。  ――それでも、光に包まれた世界が待っている。  そんな未来をステラが見るのは……きっと、晴れの日がくるよりも前だろう。

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