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第30話【終わりに近い未来の始まり 四】
互いの心音を伝え合いながらも、二人は何も言わなかった。ただひたすらに、お互いを強く抱き締めるだけ。
先にその静寂を破ったのは、シンだ。
「なぁ……報酬はオレの言い値だって約束、憶えてるか?」
「も、ち……ろん」
自分の体に起こっている初めての症状に戸惑いながらも、ステラは頷く。
この国を助けた時の報酬は、シンの言い値……ステラは父親に頭を下げて、シンが満足する宝を捧げるつもりだ。
「金でも、銀でも……貴方――シンが望む物を、何でも言ってください」
どんな言葉が返ってくるかと考えていると……不意に、肩を強く掴まれた。
そしてそのまま、強引に距離を取られる。
「……ハァ? いや、何でそうなる!」
「? シンは、義賊でしょう? 欲しいのはスノース国の宝では――」
「この流れで何でそうなるッ!」
目を丸くしたままシンを見上げていると突然前後に体を揺さぶられ、ステラはますます困惑した。
「そりゃあ、宝の地図も金銀も宝石も……等しく価値はあるさ! だが、オレが今見ているのはそんなモンじゃねぇ! アンタだ!」
「……わ、たし?」
「ウソだろ、何だよ、分かんねぇのか?」
そう言うや否や肩に両手を置いたままのシンが、ジッとステラを見つめ始める。
突然真剣な眼差しで瞳を見つめられ、ステラは素早く視線を逸らした。落ち着いていた筈の鼓動が、またもや早鐘を打ち始めたからだ。
「シン……そんなに、見ないでください……っ」
「ムリな話だ。自分の所有物はじっくり見たいタチなんだよ」
「しょ、所有物って……っ」
瞳を伏せたステラの顎へ、シンが指を這わせる。壊れ物に触れるかのようなその手付きに、ステラは身じろいだ。
「言い値だろ? だったら、言わせてくれ。……オレは、アンタが欲しい」
ビクリと体を震わせたステラに、シンは当然気付いている。そしてステラも、シンに気付かれていると気付いていた。
「あ、穴が開いてしまいそうです……っ」
苦し紛れに発した言葉に、シンは口角を上げる。
「キレイだ……。ホントに、あの日から変わらず……アンタはオレを捕らえて離さない」
「シ、シン……っ」
「ハスキーなその声も、あの頃より男らしくなった骨格も……変わらず、アンタだ」
顎をゆっくりと持ち上げられ、ステラは堪らず硬直した。その行為が何を意味するのか、薄々気付いたのだ。
「生涯アンタを守ると誓う。だから……アンタをここから、連れ出していいか?」
頭には、国の行く末がよぎった。
宰相を失ったこの国がどうなるのか……その未来を、精霊から貰った能力でまだ見ていない。
けれどステラの心は、決まっていた。
笑みを浮かべて、ステラは答える。
「私は、精霊様を探す旅に出たいです」
それはあの日、幽閉された時からずっと胸にしまい込んでいた……ステラの願いだった。
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