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第9話 3

やれやれという風に首を振って、松田さんがリビングに入りテーブルの椅子に鞄を置く。鞄から黒地に金が縁取られた箱を出して、祥吾さんの前に突き出した。 「も〜、おまえ雪くんが大事なのはわかるけど、過保護過ぎ。あんまり執着すると嫌われるよ」 「雪はそんなことで俺を嫌いになったりしない…」 「…はいはい。でも、雪くんに向ける優しさを、少しは俺にも向けてくれ。でないとほら、これ、飲ませてやらないよ?」 「なんだ、それ?」 松田さんの手から箱を奪い取って、祥吾さんがじっくりと見る。みるみる目を大きく見開くと、先ほどとは打って変わって笑顔になった。 「晴樹っ!これ、中々手に入らない焼酎じゃないかっ。どうしたんだ?」 「地域に密着した診療医をやってるとね、いろんなものを戴くわけですよ。俺が酒好きだと知ってる患者さんの一人が、ツテを頼って手に入れてくれたの。同じ酒好きのおまえにも分けてやろうと持って来たんだけど…。いきなりケンカふっかけられたしなぁ…」 「いや、晴樹、悪かった。雪に悲しい顔をさせたくなくて、つい敏感になってしまったんだ。いやホント、おまえにはいつも感謝してるよ?」 「…調子いいヤツ…」 祥吾さんが、焼酎の箱を小脇に抱えて、松田さんの肩をバンバンと叩く。それに対して松田さんが、顔を引きつらせながら「やめろ」と叫んでいる。 二人の、本当に仲の良い様子に、僕は思わず声を出して笑ってしまった。 「ふふっ。二人とも、お酒は程々にして下さいね。祥吾さん、そのお酒、冷蔵庫で冷やすの?」 僕の問いに、祥吾さんが目を細めて僕を見て、優しい声を出す。 「う〜ん、そうだな。水割りで飲むつもりだけど、冷蔵庫に入れなくても玄関に置いてるだけで、冷えるだろう」 「わかった。じゃあ、僕置いてくる」 「ありがとう。気をつけろよ」 祥吾さんから箱を受け取って、リビングを出て玄関に向かう。後ろから松田さんの、「おまえ…雪くんにデレデレだな…」と笑いを堪えたような声が聞こえた。

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