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第70話

 二人で昇りつめた後、ただの摩擦による射精とは違う、後を引く絶頂の余韻に浸っていると、万里に体重を預けていた久世は身を起こした。  離れてしまうのかと思ったら、触れるだけのキスが顔に降って、ふわふわとした心地でその甘さに酔う。 「……ん……、」  他人の体温がこんなに気持ちのいいものだなんて。  久世は万里の中に居座ったままだ。  ずっといてほしいなどと思ってしまったことを、もう少し正気が戻れば恥ずかしすぎると苦悶するに違いない。  すり、と頬と頬が触れ合う。  なんだか大型の動物にでも懐かれているようで、くすぐったい心地がした。  もしかして、甘えられているのだろうか。  だとしたらかわいい……かもしれない。  これが手管のようなものだったとしても、騙されてやろうと思えた。  温度差なんて、お互いに感じない方がいい。 「あ……、あのさ」 「ん?」  久世が伏せていた顔を上げると、至近距離で視線が絡む。  さりげなく伝えるつもりが、それだけのことで鼓動が跳ねて顔が赤くなったのがわかった。  だが、今を逃したら一生言えない気がする。  万里はどうしても震えてしまう唇を開いた。 「俺も、昴さんのこと……ちゃんと好き、だから」 「…………………………………………」  一世一代の告白だったというのに、久世は目を見開いたまま固まってしまった。  久世が言えと言ったことだというのに、何故そんな反応をされてしまうのか。 「な、なんか言えっ……、えッ?」  文句を言おうとして、唐突に内部を押し広げる感覚に息を呑んだ。  久世は何かちょっと複雑な表情で、万里の足を抱えなおしている。 「なに、ちょ、も、もう一回とか、無理…っ、」 「そう言われてもなあ……これはちょっと、不可抗力だろ」 「は?っ…あっ、待っ……んんっ…!あっ!」  試す動きで揺らされて、快楽の余韻が残る身体が勝手に反応した。  単純な摩擦だけでも気持ちがよくて、すぐに息が乱れてしまう。 「んっ、や、あ…っ」  緩やかな抽挿をしながら、時に腰を擦りつけるようにして最奥を擦られて、万里は悶えた。  激しくて何が何だかわからないまま過ぎていく行為とは違う、じわじわと快楽を引き延ばされるような愛され方に、体中が熱くて。 「も、や……っ」  甘すぎて、溶け出してしまいそうだ。  縋るように見上げた久世は、何が楽しいのか、笑っている。  汗だくで、髪も乱れていて、それなのにかっこよくて、本当に腹が立つ。  これを幸せに感じてしまう自分は一体何なのだろう。Mか?  どうして真面目に告白をしたのにこの展開なのか。文句を言ってやりたいのに、口から漏れるのは意味をなさない吐息ばかり。 「んんっ……」  身をかがめて、軽く万里の唇を吸った久世は、そのまま耳元へと顔をずらした。  そして、内緒話をするように、「万里」と密やかに甘い声で囁く。 「うんと優しくしてやるから、もう一回言ってくれ」  こんな時に、先程の必死の反撃をカウンターで返してくるなんて。 「(本当に、この男は……っ)」  意地悪で、だけど愛しくて。 「い、……っ言わせて、みせれば」  乱れた息で受けて立つと、久世は「言ったな」と面白そうに瞳を輝かせた。  ずっと、こんな表情を見ていたい。   悔しさを愛しい気持ちが上回り、万里は力の入らない腕を持ち上げると、久世の顔を引き寄せて、拙い動作で唇を寄せた。 いじわる社長の愛玩バンビ おわり

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