73 / 120
その後のいじわる社長と愛されバンビ3
防犯に優れていそうな重厚なドアの閉まる音が響くと、それがスイッチだったかのように、腰を抱き寄せられ、驚いて上げた顔に影が差す。
「んっ、んんっ……!?」
部屋に入るなりの、唐突なキス。
容易に忍び込んだ舌に舌を絡めとられて、万里は喉の奥で呻いた。
困惑している間にも、角度を変えて口付けがより深くなり、腰から滑り降りた不埒な手が、尻の丸みをぎゅっと握ったりするから、身体の奥が熱くなってしまう。
「あっ……きゅ、急に……っ、」
こんなところで、と逃れようとした足の間に膝を割り入れられ、熱を持ち始めているところを硬い太腿でぐっと擦られて、びくんと全身で反応した。
玄関先でみっともないことになってしまいそうな危機感に、体を引こうとするが尻が掴まれているので逃げられない。
「ん、っ、あっ、……」
ドサッ
力が抜けて、手に持っていた鞄を落とした。
音が大きく響いて、反射的に下に目を向けると、荷物を突っ込んだときに適当に閉じた鞄から、久世のインタビューが載っている雑誌がのぞいているではないか。
「(……………やば)」
久世の目をそちらに向けてはいけないと慌てたが、気が逸れたことを見逃すような男ではない。
目聡く万里の視線を追い、発見されてしまった。
「……それ、買ってくれたのか。うちにもあるから欲しければプレゼントしたのに」
「こ……れは、勉強のために買ったら偶然こういう内容だっただけで、他意はないですから!」
「バンビちゃんがお勉強をしようとたまたま買った雑誌に俺が載っていたのか。運命だな」
「そ………、」
前向きすぎる解釈に万里は絶句した。
痛恨である。
買ったことを知られるのは恥ずかしかったから、こっそり家に持って帰って見つかりにくい場所に保存しておこうと思っていたのに。
とりあえず拾ってもう一度鞄の中に押し込もうとすると、突然腕を掴まれて、手にしたものをまた落とした。
「なっ……」
何をするのかと文句を言おうとしたが、突然体が浮いたことで言葉は途切れた。
「え?待っ……、っえぇ!?」
何故、自分はプリンセスホールドされているのか。
「ちょ、なん、…っていうか、靴!脱いでないから!」
「ベッドについたら脱がしてやる。大人しくつかまってろ」
寝室に到着すると、ベッドに下ろされ、靴や着ているものを剥かれていく。
なんとなく性急な動作に不安を覚えて、問いかけた。
「な、なんなんだよ、今日あんた、なんかテンションおかしくない……?」
「うーむ。お前もそう思うか?」
「自覚症状あるの!?」
「あれだな。ウキウキと同窓会に出かけて行った妻へのモヤモヤから一転、外出中も写真をポケットに忍ばせておくほど愛されていたのかと思ったら色々自制がきかなくなったみたいな」
「写真はたまたま掲載されてただけだし、ポケットにも忍ばせてないですから!」
「ポケットじゃなければロケットでもいい」
今時懐中時計の中に恋人の写真入れとくみたいなのとかないだろ。
上手いこと言ったみたいな顔やめ!
万里から脱がすものがなくなると、久世もジャケットを脱ぎ捨てる。
胸元を緩める仕草を見上げたら、それ以上ツッコミが出てこなくなってしまった。
思っていたよりもずっと、久世が真剣な眼差しをしていたから。
「迎えに行ったのは、お前が心配だったからじゃない。ただ、俺が一刻も早く会いたかっただけだ」
ずるい。
この男に真顔でそんなことを言われたら、文句が言えなくなってしまう。
早く会いたかったのは万里も同じで、来てくれたのは嬉しかったと心の中では同意したが、恥ずかしくて口には出せなかった。
微かに頷き、続きを促すようにそっと、久世の手に触れる。
それを掬いとられ、恭しくキスをするところを見てしまい、恥ずかしくて脳が煮えそうになった。
「明日は、休みだな」
「学校はないけど、シフトが…」
「夜からだろ。もししんどかったら、就業時間中ずっと俺が貸し切りにしといてやる」
色々間違っている。
けれど、もう抵抗しようとは思わなかった。
好きな人に求められて、嬉しくないわけがない。
万里は恥ずかしさを堪え、与えられる快楽に溺れていった。
ともだちにシェアしよう!