102 / 120
さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ12
向かった先にいたのは、父ではなかった。
「お前……、同志ではないな!?何者だ。ここで何をしている」
硬直した万里を、厳しい声が誰何する。
完全な不法侵入で、何の言い訳もできない状況だったが、万里はそれを打破する策を練るよりも、そこにいた一団のビジュアルに目が釘付けになってしまっていた。
かろうじて視覚のみ確保された三角の頭巾。ファンタジーもので魔法使いなどが着ているようなたっぷりとしたローブ。色は全身白。
秘密結社とは悪の組織かと訊ねた際の、久世の返答が脳裏によみがえる。
『日本人のイメージだと大体そんな感じだな。今も昔も、テロリズムに結びつくような危険な組織の存在があることは否定はできないが、実在する秘密結社のほとんどは、社交クラブのような集まりなんじゃないか』
いやいや、完全に俺の想像したままの危険な組織的な衣装なんですけど!?
こんな社交クラブがあってたまるか!
「おい、答えろ。お前は何者だ」
脳内でツッコミを入れまくっている間に頭巾の一団に囲まれてしまい、万里はようやく己に迫る危機に気が付いた。
鈍すぎると言う勿れ。こんなショッキングな絵面を見せられて、固まらない人間はいないと思う。
この不気味な一団に捕まったらどうなってしまうのか。本能は全力で逃亡したいと叫んでいるが、冷静に考えれば、一切土地勘のない場所で父を探しながら逃げ続けるなどという芸当が、自分にできるとは思えない。
見た目はともかくとして、久世が言っていたように危険な結社ではないのなら、素直に事情を話せば情状酌量の余地があるだろうか。
だが、こんな格好をしている奴らがまともに話を聞くのかどうか。
どうしたら…、
「何事だ」
冷や汗をかく万里の背後に、カツンと硬い靴音が響く。
一声で、場の空気が変わったのがわかった。
それまでやや遠巻きに囲まれていただけだったが、唐突に左右から伸びてきた腕に拘束され、膝をつかされる。
「導師様……、不審者です。危険ですので、お下がりください」
ドウシ? 『様』付けということは、この頭巾たちよりも立場が上の人間なのか。
できればまともな人柄であってほしいと願いながら、ちらりと『ドウシ様』とやらを盗み見た万里は、その姿に絶望した。
男は、先に会った一団とは違い頭巾は被っておらず、晒されている素顔は若く、顔立ちは上品に整っている。
ただ、首から下の格好が。
襟が高く裾が長い、ファンタジーもののゲームやライトノベルに出てくる軍隊の礼装のようなそれは、やはり漫画やアニメの悪の秘密結社の首領そのもので。
万里はまたしても心の中で叫ぶのだった。
結社って、馬鹿なの!?(二回目)
コスプレ感が拭えない『ドウシ様』は、止める頭巾たちにも構わず、異常すぎる事態に抵抗も忘れ、死んだ魚のような目になっている万里の方へと近寄ってくると、ジロジロ無遠慮に検分した後、ふんと鼻を鳴らした。
「なんだ、まだ子供ではないか。離してやれ」
IはSHOCK!
既に大人としての責任を取れる年齢なんですけど!?
「ですが、導師様」
「構わん。部外者であろうと、ここまで入って来られたということは、我が主に害為す者ではないということだ」
「……かしこまりました」
あっさりと解放され、万里は拍子抜けしてしまう。
どうして、という思いで仰ぎ見ると、『ドウシ様』と視線が合ってしまった。
「それで……貴様はここで何をしていた?」
「こ……、こちらへは、うっかり迷い込んだのですが、父親とはぐれてしまって…」
そんな言い訳あるか。
言っていて自分でツッコミを入れてしまったが、残念なことにほとんど事実である。
事実なのだが、こんな言い分を信じてもらえるはずが、
「そうか。それは心細かろう」
……あった。
『ドウシ様』は納得したと言うように頷いている。
「父親の名は?」
「え……す、鈴鹿、春吉」
驚きすぎて思わず、素直に名前を告げてしまっていた。
一抹の不安が胸をよぎったが、それを聞いた男は、そのまま頭巾たちに「探してやれ」と指示を出している。
いい人……なのだろうか?
「息子の方はどういたしますか?」
頭巾の一人の問いかけに、『ドウシ様』は万里を見て、ニヤリと笑った。
「うむ。ちょうどよかった。父親が見つかるまで、貴様は俺のティータイムに付き合うといい」
えええ。
言うなり、ファーのついた豪奢なケープをバサリと翻し、背を向けてしまう。
ついてこいということだろう。
ここで逃げ出したらどうなるのだろうかと考えたが、やはり逃げ切れるとも思えず、万里はその後を追いかけた。
ともだちにシェアしよう!