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最終話

「ア”…ッい、ああっ、きもち、イ”、ぐっ…」 「八束君っ、八束君っ」  切羽詰まった様子の碓氷に、愛しさを感じる。正常位で突かれ、臍下が心なしか膨らんでいる気がする。するり、と顎下を撫でられた。ゆっくりと包まれて圧を掛けられる程に息が苦しくなってくる。  意識が遠のいていき、絶頂に似た浮遊感が心地よい。視界が真っ白になった瞬間、肺に空気が入り込んできて、噎せる。 「げほっ…なに、す…」 白黒と点滅していた視界がやっと正常になり、入ってきた情報に狼狽えた。 「…うすい…?」 首を絞めていた両手が震え、そのまま顔を隠してしまう。 「うすい、どうしたんだよ」 うずくまった碓氷の頭を抱えるようにして抱きしめる。役得…なんて不謹慎なことを考えてしまったのは内緒だ。 「め…、…ん」 「…うすい…?」 ごめん、ごめんと繰り返す碓氷。こんなに弱いところを剥き出しにしたこの男は初めて見る。碓氷の弱い部分に触れられるなんて、これほど喜ばしいことがあろうか。 対面座位の体位になって、萎えてしまった碓氷のペニスをきゅうううぅと締め付けて勃起させる。 「ん、ッ…は、うすいっ、」 ぱちゅんっぱちゅんっと腰を上げて直下するということを繰り返す。長大なモノが、俺の奥を抉ってその度に意識が飛びそうになってしまった。  しばらくそうして遊んでいると、意識がはっきりしていきたのか、悔しそうな顔をした碓氷がガン突きしてきたのだが、最高に気持ちが良かった。 *  おかしい…なにがおかしいかというと全ておかしいのだけれど、おかしい。    碓氷が…セックスしてくれないのだ。いや、別にセックスしてほしい訳じゃないんだけどね!?普段あれだけのスパンでヤっていたのに、前回シたのだって、一週間前だ。一度、家に押しかけてみるか…?学校でも挨拶程度の会話しかしないし、最近の碓氷は上の空だ。  別にセックスしたい訳じゃないけどね!?  思い立ったら即行動するのが、八束という男である。  やはり、授業中も板書はとっている様子だがどこか空虚な表情を見せる碓氷を横目で見ながらも、早く放課後になれ…!と願う。帰りのホームルームが終わった瞬間、フラフラと帰っていく碓氷の跡をつける。  なんだ…?浮気か…?  どうにも様子がおかしい碓氷に、あまり考えたくはないが浮気という可能性まで疑ってしまう。もともとイケメンで頭も良い碓氷はモテる。ただ、鈍感なフリをして今まで女の子を泣かしてきたようだが、今は「付き合っている人がいるから」と言って断っているらしい。  待てよ、俺達って付き合ってんの…?あれ…?  俺が一歩的に好きって言って、抱きしめられて、家に呼ばれて、セックスしてるだけじゃね…?  じゃあ、碓氷と付き合ってる人って誰だ?  他の人と付き合っているというのなら、碓氷にとって俺は何…?まさか… 「せふれ…」 言葉にした瞬間に眩暈がし、即座にその言葉を忘却の彼方へと追いやろうとした。 うがああという変な奇声を発してなんとか正気を保つ。このままでは発狂して、ご近所さんに通報されてしまう。 「ねえなにしてんのさっきから」  不機嫌そうな声が頭上から振ってきた。座り込み、頭を抱え込んでいた手を退けそろり、と視線を声がした上の方にとやると、そこには眉間に深い皺を作った碓氷が立っていた。 「碓氷!?」 こっそり跡をつける作戦が…! 「俺の跡をつけて奇声発さないでよ。ご近所に通報されちゃうだろ」 「ご、ごめん…」  しょうがない、今日のところは退散するか…そう思って、回れ右をする。 「どこ行くの?なんか用があったんじゃないの?」 「う、うん…!」  碓氷の家まであと五分くらい。教室で見る碓氷も、学校の外で見る碓氷もかわいい。視線に耐えかねたのか、睨んでくる碓氷もまたかわいい。 「…なに」 「いや、碓氷にとって俺ってなんだろうなって思って」  碓氷は、少し目を開いて、ぴたりと歩みを止めた。 …まって、俺何言ってんだ!?俺が思ってたことは、「碓氷がかわいい」であって、めんどくさい彼女が言いそうな台詞ナンバー1「あなたにとって私はなんなのよ!」というものではないのだ。俺の頭はフル回転しているというのに、碓氷は冷たい目でこちらを見つめる。 「…恋人、とでも言ってほしいの?俺、そういうの嫌いなんだよね」  俺を馬鹿にするような口調。人を見下すような台詞。それなのに、何故… 「そんな泣きそうな顔して、言うなよ…!」 「…」 「確かに俺は碓氷とのセックス好きだけど、セフレなんて嫌だしそもそも俺は碓氷のこと好きだし…!」 「おま」 「お前にとっては、遊び…かもしれないけど…!俺は本気で、お前のことが…!」  そこまでしか言う事ができなかった。正確には顔を真っ赤にした碓氷が俺の口を手で思い切り塞いだのだ。 「わかった、わかったから…」 未だに口を塞ぐ掌を舌で押しやるように舐めるとその瞬間、碓氷はさっと手を引っ込める。いつもよりも早歩きで歩く碓氷の後ろにくっついて、俺は碓氷の家へと向かった。 * 「い”ッ…」 思い切り乳首を噛まれ、その鋭い痛みに声を上げる。ワイシャツは腕を通したまま、前だけ広がられ執拗に舐められる。 「ふ…ん、あ…」 なんてことのない場所のはずなのに、首、胸、腹、そして臍の中まで舐められて息が上がる。時折くっきりと跡が残るまで噛まれる度に、すでに勃起している自身の屹立が震えた。 「ふ、んっ…も、やめ…」 力強く瞑っていた目をうっすらと開く。ばちり、と合った目と目。捕食者の目をした彼に、支配されたい、という欲求が湧いた。  冷たい指が首元を這う。両手でしっかりと首を掴み、力が入る、そう思った。  …だというのに、いつまでたっても、息は苦しくないし、首も痛くない。期待を込めて再び閉じた目を、ゆっくりと開けると、俺の頬に水滴が垂れる。 「…!?う、碓氷…!?」 その端正な顔を歪ませて、瞳いっぱいに涙をためている碓氷がいた。下を向いているせいで、堪え性のない涙がボタボタと俺の顔に落ちてくる。俺は勢いよく起き上がり、碓氷を抱きしめる。 「ど、どした!?なんか、いたい…?」 どうして泣いているんだ…!?俺、なんかした…?  密着していた肌を離して、顔を覗き込む。すると、さらに表情を歪ませて泣き始めた碓氷にパニックが加速する。 「え、ええどうしたの…碓氷い…」 情けないが、俺まで泣きそうだ。こんなに、悲痛に泣く人間は初めてみた。 「…ぅ、おれ…お前のこと、ぜんぶ、しはいしたくて…ぅ”…でも、おれのこのきもちが、すきかわかんな…ひぐッ…う…」 お、おお…? 「くびしめたくなるし、いたがるのみたいし…ぅっ…おれ、じぶんがこわくて…ごめん…」 そうか、碓氷は、そう思っていたのか。  泣きじゃくる碓氷の両手を握って、自分の首へと導いた。そのまま、後ろへと倒れて首が絞めやすいような体勢になる。 「碓氷…俺、別にお前になら首絞められても、痛くされても構わない。死ぬのはやめてほしいけど…」 ボタボタと涙をこぼしながらも、俺を呆然と見つめる碓氷はやっぱりかわいい。 「だから、さ。…もっと…シてほしいな…?」 一向に首を絞めようとしない掌に、顔を摺り寄せた。冷たくて気持ち良いその手にはやはり愛おしいという感情しか湧かない。 「ひ、ぐッ…あああッ、そ、んな急に…!」 唐突に粘膜が抉られ、快楽に脳が点滅した。鎖骨の下のところを親指でぐっと抑えられ、上手く息ができない。自分の腹のところが生温かい。白む視界を自身の身体へと向けると白濁で汚れている。 「あ”ッ…ああぅっ…んああッ…」 「淫乱」 耳元で低い低い声が囁かれる。クソ!さっきまでビービー泣いていたくせに…!と文句が言いたいのに、口から出てくるのは嬌声ばかり。  乱暴に腰を振る碓氷の上半身を腕でぐっと引き寄せて、抱きしめる。 「ん”ん”ンぁッ…あ、ひっ…」 やっと、碓氷の心に触れられた。俺は、今きっと世界で一番幸せだ。抜き挿しをするというよりは、奥に奥にと押し付けるように熱を帯びた質量を受ける。その動きに、内臓が押し上げられそのたびに息がつまり、口からは汚い声ばかりが漏れる。どうしても指先に力が入り、碓氷の背中に自分の爪が食い込むのがわかる。 「あ”ッああっんぅう”あっ、くるしい”っ、んん”ッ、ッひ、」 普段のセックスでも挿入される奥が今降りてきているのがわかる。閉じた肉襞がゆっくりとだが確実に拓かれていくのが、わかる。まるで自ら挿入してほしい、とでも言うように。 「もッ、もうはいんなッい、か、あ”ッ」 ぐぷんっ 「あ”~~~ッッ、ッ、~~~!!ッ!」 「はーっ、きもちい、ッ…」 恍惚とした表情をする碓氷を見て、きっと明日立てなくなるだろうにそんな心配もどこかへいってしまった。結腸を無理矢理こじ開けて亀頭が抜けないように小刻みなピストンで、拓ききった結腸の入口は痙攣を止めることができない。  無意識に粘膜がきゅうきゅうと圧倒的に支配をするその熱を締め付け、余計に感じてしまう。きもちいい、だしたい、もっとしてほしい。そんな感情が頭の中を駆け巡る。  下腹の辺りが熱を持っている。完勃ちした自身が碓氷の腹にあたっているのがわかる。碓氷の腹にペニスをこすりつけ、下腹のあたりで増々膨張してく快楽が今にも割れて、この身を埋めつくそうとしている。 「中に出すから、ちゃんと孕めよッ…!」 「えっ、中は、ッだめぇっ、あ、あ、あ、イ”ッ…イっちゃ…ッひ、ああ”ッ…も、やっん”ッア、アッ…あ”あ”ああッ」 胎内でと長大なペニスが震え、ドクドクと熱い精液が出されたのがわかった。 「ッ、ひ、ん、は…あ、あつ…」 内臓が火傷してしまったのではないか、というくらい熱い。自身の出した精液を奥にこすりつけるように、緩いピストンが繰り返される。まるで、マーキングだ。 「ふ、も、うごかなッイッんああ…ッ、また、いっちゃ…」 汗ばんだ首筋に吸い付いて、匂いを嗅ぐ。欲に浮かされ、涙が止まらない。 この瞬間が、いつまでも続けばいい。 碓氷が、好きだ。いつか、碓氷が俺のことをちょっとでも好きになってくれますように、そう願って、わざと後孔をきゅう、と締めた。 【完】

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