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モブAの災難

 クラス替えをしてから、二週間が経った。一年の頃から一緒にいる八束と今年も同じクラスになったのだが、どうも様子がおかしい。  どうやら、恋をしたようで。それはとても素敵なことだと思うのだ。それでも、その恋の内実をしってしまった俺は、八束を止めるべきか応援すべきか葛藤することになる。  八束の視線の先は、学校一のモテ男、碓氷 美零(ウスイ ミレイ)という男。そう、男だ。世の中がどんどんそういったことに寛容になったとは言え、それは自分のテリトリー外の話だろう。やはりまだ、社会の目はそう甘くはないのだ。  八束 春一(ヤツカ ハルイチ)は、男の俺から見ても男前でちょっと変人で、でも仲間思いの良い奴だ。そんな八束を好いて、アイツの周りにはよく人がいる。だから、アイツが碓氷を好きだと教室で言った時は、皆驚いたもののそこからいじめには繋がらず、碓氷の鈍感さで告白に気付いてもらえなかったことをいじりだした。  「碓氷が有栖川さんに告白されたらしいけど、振った」という話で元気づけようとしたら、どういう思考回路になったのか、碓氷を諦めると半泣きで言い出した。待て待て、なぜそうなる。俺の勘だけど、お前のその恋、そう下手には転ばない気がするぞ…? 「ねえ」 ほらな、八束お前気にせずアタックしろよ 「八束君に変なこと吹き込んだのは君?」 「変なこと?」 さも自分が八束からの矢印向けられて当然のような顔をしている碓氷に、少しばかり灸をすえてやってもいいだろう。一度とぼけると、その綺麗な顔を歪ませる。 「君は、八束君のなんなの?」 「ダチだけど?お前こそ、なんだよ。アイツと友達でもないくせに」 「…」 「ま、俺に牽制するよか、やることあんじゃねえの」  俺がそう言ったことによって、焚きつけられた碓氷が暴走したことは知らない。しかし、その後教室でどことなく距離の近い二人を見て、教室にいた誰もが察した。  八束が幸せそうに笑うことを、俺は本当に嬉しく思う。お前の幸せを願いながら、自分の痛む胸を押さえつけた。

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