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第16話(最終話) 彪

「ばかっ!!!!」 思わず大嫌いな自分の姿……獣の姿になって、俺は芹人を空中から屋上の内側に投げていた。芹人の体の上に降りて、人の姿に戻る。 「ばか! せりとのばか! 自己嫌悪するくらいなら俺に謝るなよ! 言ってくれよ! 好きだって言ってくれよ……!!!! ばか! ばーかばーか、このっ、大馬鹿野郎!!!!」 放心したように目を見開く芹人の襟首を掴んで、俺は何度も馬鹿野郎と繰り返した。 ぱたぱた落ちる涙は拭うのも面倒で、ただ流れるに任せる。……今はただ、芹人に怒りたくて仕方が無かったから。 ……俺は芹人の世話しない足音を聞いて、途端に嫌な予感に襲われた。何かを喪ってしまうような、そんな苦しい感覚だった。 これ以上何を失うんだろう、だなんて考える余裕は無かった。ただそれは芹人なんだろうと……直感的にそう感じ取ったんだ。だから、音と匂いに集中してそのまま芹人を追い掛けた。 そして…… 『……もう良いや。ごめん、彪、ごめんな。許さなくて良いから。……ごめん』 一階層上の屋上から聞こえた芹人のその声に、俺は鳥肌が立ってしまった。だから最後の階段を音にだけ気を付けて駆け上る。 俺は嫌な風が吹いた瞬間に獣化した。……殆ど本能だけで動いていたと思う。 「あ、きら……?」 「なんだよっ!」 芹人が夢を見ているような虚ろな瞳で、俺の頬に手を伸ばした。一瞬躊躇して、でもそっと……硝子細工にでも触れるような調子で俺に触れた。その手は温かくて、大きくて、安心して……生きてるんだなあと思うと、途端にまた涙が溢れてしまった。 芹人は驚いたように手を引こうとして、でも俺はそれを許さなかった。ぎゅ、とその手を掴んで頬に当てさせる。ああ……俺はこの手を離さない。離したくない。 「芹人……俺は、お前のことが好きだ。だから、だからお前もそう言ってくれ」 ……芹人は哀しげな顔で微笑んで、許してくれなくて良いのにと呟く。 「でも……ゆるしてくれるなら、いおう」 愛してるよ、と芹人は俺に囁いた。真っ直ぐ俺の目を見詰めて、そして両手で俺の顔を引き寄せる。 躊躇う様な顔をした後に目を閉じて、そして…… 俺達は、唇を重ねた。 Fin……?

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