15 / 17

第15話 芹人

好きだと、聞こえた。 受け入れて欲しいと、そう……聞こえた。 どうすればいいのか解らなくて、俺は部屋の前でただ息を吞むしか出来なくなる。 彪の、これは彪の本心? 寝言じゃ無いのか? 間違いじゃ無いのか? 彪、彪彪あきらあきら……? 「っ……」 思わず扉に背を向けた。 早足で玄関まで向かって、そのまま何も言わずに外に出る。靴を引っ掛けて、鍵も閉めてない。……でも良いんだ。今は……彪に合わせる顔が無いから。 周りの音は聞こえてない。 風だけが俺の耳元を通り過ぎていた。 ……目に留まる、非常階段に足を踏み入れた。目指すのは……何処だろう。 取り敢えずは、屋上へ。 「こんなに……このマンション、高かったっけ」 嫌に風が強い。 気付けば俺は街を足元に見ていた。……この屋上にはフェンスが無くて、何時の間にやら俺は屋上の縁に腰掛けている。 ああ……このまま、身を投げてしまおうかな。彪に合わせる顔なんて、今更無いし。 どうせだ、なんて思ってしまう。 「……もう良いや。ごめん、彪、ごめんな。許さなくて良いから。……ごめん」 目を閉じて、重心を前に傾けた。

ともだちにシェアしよう!