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Born This Way⑤
結局俺たちが昼飯にありついたのはもう夕方近くなってからだった。フリータイムにしといてマジでよかった。
「ごめんな、鈴木さん」
サンドイッチを齧りながらアンは言った。
汗で化粧が崩れてメイクを落としている。目元がすっきりして少年ぽい顔つきになっていた。
「今日ずっと僕のワガママに付き合ってもらってばっかりや」
「俺はセックスできりゃそれでいいんだよ」
優しいなあ、とアンはふにゃりと笑う。
「俺はただの変態だよ」
「そうやな。僕みたいなのとセックスできるんやもんな」
「は?なんで?」
アンは目をぱちくりさせた。
「男の娘って分かったらな、みんな一旦僕からすっと離れる感じがするんよ。まあしゃあないけどな」
「ふうん」
「鈴木さんはそんなん全然なくて、僕嬉しかったんや」
笑うアンのスマホが鳴った。
ちょっとごめん、とアンは電話に出る。
スピーカーから、こちらに聞こえるほどの怒鳴り声が聞こえる。やがて能面のような顔で電話を切るアンにドキリとした。
「ごめん、親から。はよ帰れて」
硬い声が転がり落ちた。
「僕な、こんなんやろ、女装するのも服飾の学校もめっちゃ反対されとるんよ」
「ふうん」
「でもな、やっぱやめられへんわ。
これが僕やしな」
そう言うアンの横顔は、しっかり男の顔をしていた。
「今日はありがとうね、鈴木さん。
めっちゃ楽しかった」
パッと笑顔が咲く。
「いいから化粧してこいよ、時間ねえから」
「アハハ、ホンマ酷い人やわ!」
洗面所に引っ込んでったアンが出てくるまで、思った通り時間がかかった。
遅くなるとユウジにラインしたが、既読がついただけで返事がなかった。
これは帰ったら面倒になるパターンだ。
「なあ、アン」
何?と声が返ってくる。
「なんか、女のガキが喜ぶものって知ってる?」
アンが服屋で貰ったノベルティのヘアゴムと、買ってきたスイーツを持って帰ると、カホは今日誰かのお誕生日?!とテンションを爆上げし、ユウジは気色悪がってた。
「お前、まさか女でもできたのか?」
そんな買ってきた野菜の中から大嫌いな虫を見つけたような顔で聞くなよ。
それがお前らにとって普通なんだろ。
「今日だけな」
と返すと今度はクエスチョンマークが目に浮かんでいた。
まあ、カホも喜んでいるし、ユウジを黙らせられたし、これはこれでよかったんだよ。
俺はきっと正しいことをしたのさ。
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